043 ジャガイモ
金曜日――
地下8階の広大な草原。襲いかかってきたワイルドボアとゴブリンライダーのペアを討伐し、光の粒子が消えた後の地面を見下ろす。
「お、両方ドロップか」
地面には、硬貨と一緒に二つのアイテムが落ちていた。
一つは、ワイルドボアが落としたであろう肉の塊だ。イノシシ同様、スーパーで売られている精肉のように、発泡スチロールのトレイに乗せられ、丁寧にラップでパックされている。
パックの右下に『ワイルドボア(モモ肉)』と印字されたラベルが貼られている。
「最近は、ダンジョン産のモンスター肉を買い取ってくれるお店も多くなったよね」
リサがパック肉を拾いながら言う。
「そうだな。せっかくだし、駅前にあるカンザスシティBBQの店に売らないか? あそこのBBQは最高なんだよ」
「えー、昨日のバルのお店も買い取りの看板出してたよ! あそこで料理してもらおうよ!」
「…………」
「…………」
バチバチと無言の火花が散る。お互いに譲れない戦いだ。
「……まあ、もう少し粘って二つ目の肉を狙うか」
「そうだね、大会に向けてレベルも上げないといけないし」
無用な争いを避けるため、俺たちは平和的な解決策を選択した。
「それで、ゴブリンライダーが落としたのは、ただのコレクター用のアイテムかな?」
肉の隣に落ちていたのは、ライダーが投げてきたのと同じ手斧だった。俺は念のため『鑑定』スキルを発動して詳細を読み取る。
【鉄の投斧】
投斧用の斧。投擲時、わずかだが命中率が上昇する。
「お! コレクターアイテムじゃなくて、ちゃんとした武器だ。少しだが命中率が上がる投擲専用の斧か……リサ、持っておくか? 石を投げるよりは威力が出そうだぞ」
「そうね。命中率が上がるなら使ってみるわ」
俺が斧を手渡すと、リサは軽く振って重量感を確かめ、満足そうに頷いた。
「これも予備を含めて、もう少し粘ってみるか」
そう言いながら、ふと足元の草むらに視線を落とした時のことだ。
「ん!? この草、周りの草と少し違……これ、ジャガイモか!?」
「あー、言われてみればジャガイモっぽいね。小学生の時、学校の授業で育てたわー」
俺は土から顔を出している太い茎を両手でしっかりと掴み、一気に引っこ抜いた。
ズルッ、ゴロゴロ……!
根っこに連なった拳大のジャガイモがいくつも姿を現した。
「大量だ」
間違いない。俺は土のついたジャガイモを手に取り、再び『鑑定』をかける。
【ダンジョン産ジャガイモ】
長時間煮込んでも煮崩れしにくい、美味しいジャガイモ。
「おー、煮崩れしないって、おでんとか肉じゃがに良さそうね!」
リサが目を輝かせる。
俺は逸る気持ちを抑え、試しにそのジャガイモを自分の『道具』に入るか試してみた。
スッ……。
ジャガイモは無事に亜空間へと吸い込まれた。
「『道具』に入ったぞ!」
俺が思わず大声を上げると、リサは不思議そうに小首を傾げた。
「そうね。何をそんなに驚いてるの?」
「いや、これはすごいことなんだよ。この先、下層へ進んでダンジョン内でキャンプをする場合、かさばるのが食料だ。でも、ダンジョン内で自生している食材がこうしてアイテムボックスに入るなら、食料の持ち運びが劇的に楽になる」
ダンジョン外から持ち込んだ物はリュックで背負うしかないが、現地調達した食材なら無限に収納できる。
「確かに! それならリュックの空いたスペースに、別のキャンプ道具を詰め込めるもんね」
「そういうことだ。他にも食材がないか、注意して探索しよう!」
それからの俺たちの動きは早かった。
俺が『索敵』で周囲のモンスターを警戒し、リサが目を皿のようにして草原の食材探しを頑張った結果――。
なんと、人参とタマネギまで発見することに成功した。
『道具』に並んだ、ジャガイモ、人参、タマネギの文字を見て、俺は思わずニヤリと笑った。
「これだけ揃えば、カレー、シチュー、肉じゃが……なんでも作れるな」
「おお! おじさん、もしかして料理得意なの?」
「……まあ、レシピを見ながら時間をかければ、なんとかなるレベルだよ。リサは料理するのか?」
俺が問い返すと、リサはスッと目を逸らした。
「…………ジャガイモはさ、茹でただけでも美味しいと思うよ、私」
「そうだな。バターつけると美味しいよな」
俺は東京のカレー屋で食べたジャガイモを思い出しながらフォローするのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




