040 日本一武闘会!(仮)
木曜日の朝。
ダンジョンの受付へ向かうと、いつもの受付嬢が満面の笑みで出迎えてきた。
「いやー、柏木さん大活躍でしたね」
「……どこがですか」
昨日の放送をきっちりチェックしていたらしい彼女のからかいに、俺はジト目を返す。あんな数十秒の映り込みの、一体どこが大活躍だと言うのか。
「ふふふ、まぁまぁそんなに怒らないでくださいよ。そんな『大活躍』の柏木さんパーティーに、またまたテレビ出演の依頼でーす」
「断ります」
食い気味に即答して踵を返そうとした瞬間、横からリサにガシッと腕をホールドされた。
「ちょっとおじさん! なんで話も聞かずに断っちゃうの!?」
「そうですよ、せめて話くらい聞いてくださいよー」
「……話だけなら」
結局、女性陣二人に完全に包囲されて逃げ道を塞がれた俺は、渋々カウンターの前で立ち止まることになった。
「今度は、年末特番です! タイトルは『大晦日! No.1探索者を決めろ! 日本一武闘会!(仮)』という番組になります」
「大晦日はこたつで美味い酒でも飲みながら、家でのんびりするつもりだからパスで」
「おじさん、いいから最後まで聞こうよ」
逃げ腰の俺を、リサが包囲する。
「そうですよ、リサさんにも大いに関係ある話ですからね」
「なになに?」
リサが目を輝かせて身を乗り出すと、受付嬢は手元のバインダーを開きながら説明を始めた。
「まずは地方予選がありまして、参加者は自力で地下6階まで進んでいただきます。そこまでは、パーティーで行動してもOKです。そして地下6階でトーナメント形式の大会を行いまして、上位二名が晴れて全国大会に出場、という流れですね」
「うーん……対人戦なんてやったことないからな。手加減を間違えて、相手に大怪我とかさせるかもしれないぞ」
ダンジョン内のモンスター相手ならともかく、人に向けて武器を振るうことには抵抗がある。俺が懸念を口にすると、受付嬢は笑顔で首を振った。
「そこはご安心を。防具は普段使っているものをそのまま使用可。怪我をした時のためのポーションは、大会側が用意しています。それと、武器は木の剣などの『木製武器』までに制限されます。そして何より――魔法は一切禁止です」
「……魔法禁止? それなら、俺に勝ち目はないな。前衛職のリサの方がよっぽど優勝できそうだ」
俺のステータスはボーナスポイントを振っておらず、とても平均的だ。最大火力は魔法攻撃。それを縛られ、木刀でのどつき合いになれば、フィジカルにポイントを振っていない、おじさんに勝機などあるはずがない。
「前線でガンガン戦ってるような攻略組の人は出るの?」
リサがもっともな疑問を口にする。
「んー、そこまではまだ分からないですね。どうします?」
俺は心の中でそっとため息をついた。
(おそらくは、テレビ局側が絵面を気にして、SNSで人気のキラキラしたイケメン君たちが活躍できるように根回ししているんだろうな……魔法禁止や木製武器縛りも、大怪我を防ぐ名目と同時に、テレビ的に映えるチャンバラをさせるためだろう)
そんな大人の裏事情を勝手に推測していると、隣でリサがウズウズした様子で俺の袖を引いた。
「おじさん、私……ちょっとこれ出てみたいんだけど」
上目遣いで訴えかけてくるその目は、完全にやる気満々だった。
「……はぁー、分かったよ。予選会場の地下6階まで同行するよ。でも、俺は絶対にトーナメントには参加しないからな」
「やったー!」
リサが無邪気に両手を挙げて喜ぶ。
「それじゃ、お二人でエントリーの手続きをしておきますね! 予選は11月みたいです。スケジュールが決まったら、また伝えますね」
受付嬢は満面の笑みで手元のキーボードを叩き始めた。
こうして昨日、誓ったばかりの『今後もし、テレビの仕事が来ても、絶対に断ろう』という思いは、早くも崩れ去ったのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




