037 炙りしめ鯖
探索を終え、プレハブ小屋の扉を抜けて地上へと戻る。
リサの頭には、運良く草原ウルフが落としたレアドロップ『ウルフキャップ』がちょこんと乗っていた。草原ウルフの頭部をそのまま使用したようなデザインで、両サイドには耳まですっぽりと覆うフラップがついている防具だ。
「これ、本当に私が被っていいの?」
「ああ。いい防具は前衛を担当するリサが優先的に装備した方がいいだろう」
もふもふとした緑色の帽子を嬉しそうに撫でるリサを横目に、俺はお互い木の盾に視線を落とした。
度重なるゴブリンアーチャーの矢を受け続けたせいで、どちらの盾も穴だらけになっている。
「それにしても、たった一日でだいぶボロくなったな」
「いつパカッと割れてもおかしくないね」
「俺はこのあと、駅前の謎店に行って青銅の盾に買い替えようと思うんだが、どうする? リサの分も買ってこようか?」
「私も一緒に行く! 買い物のあとは、居酒屋で飲も!」
「そうするか」
俺たちは更衣室で着替えた後、駅前の謎店へと向かった。
使い古した木の盾を買い取ってもらい、代わりに『青銅の盾』を購入する。グリップの握り具合や重みを確かめた後、俺たちは青銅の盾を『道具』へと収納した。
買い物を終え、俺たちは駅近くの赤提灯が灯るいつもの大衆居酒屋の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい!」
威勢のいい大将の声に出迎えられ、カウンター席に並んで腰を下ろす。
「まずは、せんべろセットでいいか?」
「もちろん!」
「大将、せんべろセット2つ。俺はビールで」
「私もビールで!」
「あいよ!」
すぐに、よく冷えた生ビールと、小鉢が運ばれてきた。
今日の小鉢は、豚の角煮ときんぴらごぼうだ。
「それじゃ、今日も無事に帰還できたことに、乾杯!」
「乾杯!」
カチンとジョッキを合わせ、冷え切ったビールを喉へ流し込む。地下7階の緊張感で乾ききった体に、麦の苦味と炭酸が染み渡っていく。
すかさず、豚の角煮に箸を伸ばした。
飴色に輝く分厚い豚肉に箸を入れると、力を入れずともスッと切れ目が入る。そのまま口に運べば、じっくり煮込まれた脂身がトロトロと舌の上で溶け出し、甘辛い醤油ベースのタレが豚肉の濃厚な旨味と共に口いっぱいに広がった。この濃い味付けが、容赦なくビールを要求してくる。
次はきんぴらごぼうだ。
シャキシャキとした歯ごたえと共に、ごま油の香ばしさと唐辛子のピリッとした辛味が弾け、口の中の脂を綺麗にリセットしてくれる。
小鉢をつまみながら、追加で何を頼むかメニュー札を眺める。
ちょうど一杯目のビールと小鉢が空になった絶好のタイミングで、セットの二杯目のビールと、焼き鳥が焼き上がってきた。
「大将、冷酒を一合と揚げ出し豆腐と炙りしめ鯖を追加でお願い」
「私は、いぶりがっこクリームチーズと豚の角煮おかわり、あとレモンサワー頂戴!」
「あいよ! ……どうやらお二人さん、上手くいってるようですね。よかった」
「大将、紹介してくれてありがとね!」
リサが嬉しそうに笑い返しながら、焼き鳥の串に噛み付く。
あれを紹介と言っていいのだろうかという、ツッコミを心に中にしまっておく。
香ばしい炭火の匂いをまとった焼き鳥と二杯目のビールがなくなる頃、俺たちの追加オーダーがカウンターに並べられた。
徳利とお猪口を受け取り、まずはメインの炙りしめ鯖に箸を伸ばす。
バーナーで炙られた皮目は、まだチリチリと微かに音を立てて脂を弾かせていた。ひと口噛み締めると、身の締まった鯖の強い旨味と、程よい酢の酸味、そして炙られた皮の暴力的なまでの香ばしさが一体となって鼻腔を抜ける。
すかさず、お猪口に注いだ冷酒をキュッと流し込む。鯖の濃厚な脂を日本酒のキレのある辛口がスッキリと洗い流し、口の中には得も言われぬ幸福な余韻だけが残った。
揚げ出し豆腐もたまらない。
カツオ出汁の効いたつゆをたっぷりと吸い込んだ衣は、旨味の塊だ。それでいて中の豆腐は絹のようになめらかで、大根おろしと生姜を乗せて食べれば、ホッとするような優しい味わいが五臓六腑に染み渡っていく。
「ぷはーっ! おじさんのおつまみも美味しそうだねー、半分シェアしよー!」
ほろ酔いになったリサが、俺の炙りしめ鯖をひょいっとつまみ食いする。
「おいおい、俺もいぶりがっこ貰うぞ」
「いーよー、たっぷり食べていいからねー!」
賑やかで心地よい最高の晩酌の夜は、今日もゆっくりと更けていくのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




