036 罠
大草原をさらに奥へと進んでいると、再び俺の『索敵』が複数の気配を捉えた。俺はスッと盾をもった左手を上げてリサの歩みを止める。
「リサ、前方。反応4。左右に2つずつ散開しているが……動かない」
「動かないってことは、ゴブリンアーチャーが4体? うわあ、めんどくさいわね」
「それだけじゃない。前方の草むら全体に、罠の反応がいくつもある」
「つまり、おじさんのスキルがなかったら、このまま何も知らずに進んで罠にかかってところを、一斉に矢で射抜かれてたってこと!?」
「……おそらく、そうなるな」
想像するだけで背筋が寒くなる、見事なキルゾーンだ。モンスターがここまで知恵を回してくることに薄ら寒さを覚えつつ、俺は素早く作戦を立てる。
「リサは、左のゴブリン2体に投石で牽制を頼む。俺は魔法で右の2体を片付けたら、すぐにそっちを手伝う。飛んでくる矢には十分に気をつけてくれ」
「了解!」
リサは音を立てずに身を低く沈めると、足元に落ちていた手頃な石をいくつか拾い集めた。
俺は索敵の反応がある右側の草むらへ向け、手のひらを突き出す。
「小火球!」
当てずっぽうで放った炎の玉が、草を焦がしながら飛んでいく。
ドォンッ! という破裂音と共に、『ギャギャッ!』と短い断末魔が響いた。どうやら運良く直撃したらしく、右側の反応が一つ消滅する。
仲間がやられたことで、残る3体のゴブリンアーチャーがたまらず草むらから立ち上がり、一斉に粗末な弓を構えた。
「おりゃっ!」
リサが勢いよく腕を振り抜き、石を投擲する。
ビュンッと風を切って飛んだ石は、左側にいたゴブリンアーチャーの一体の腹部に深々とめり込んだ。即死とはいかないが、ゴブリンは痛みに耐えかねてうずくまり、完全に戦線から離脱する。
だが、無傷のもう一体がリサへ向けて矢を放ってきた。
トンッ!
リサは左手に持った木の盾で矢を防ぎながら、右手に持った石でさらに投石を続ける。
その間に、俺は右側の残る一体へと狙いを定めた。
「火の矢!」
「ギギギャッ!」
炎の矢がゴブリンアーチャーの胸を正確に突き刺さり、体が燃え上がって光の粒子へと変わる。
「こっちは片付いたぞ!」
俺が声をかけると、リサは足元の石を拾っては投げ、拾っては投げを繰り返しながら悔しそうに叫んだ。
「もうっ! 全然当たんない!」
ゴブリンも馬鹿ではない。左右にちょこまかと動き回りながら矢を番えてくるため、素人の投石ではなかなか決定打にならないのだ。
「俺が矢を防ぐから、落ち着いて狙って投げてみてくれ」
俺はリサの前にスッと立ち塞がり、木の盾を構えた。
トンッ! トンッ! と、ゴブリンの放つ矢が俺の盾に突き刺さる。防御を完全に俺に任せたことで、リサの目に冷静さが戻った。
「すぅーー……はぁーー……」
リサは一度深く深呼吸をして、石を握り直す。
そして、ゴブリンアーチャーが次の矢を放とうと動きを止めた一瞬の隙を見逃さなかった。
「えいっ!」
素早く振り抜かれた腕から放たれた石が、直線的な軌道を描いてゴブリンアーチャーの眉間にクリーンヒットする。
ゴブリンはそのまま白目を剥いて仰け反り、光の粒子となって消滅した。
「よしっ! ……一体生きてるから、トドメ刺してくるね」
リサはホッと表情を緩めると、腰から鋼鉄の剣を引き抜き、先ほど腹に石を当ててうずくまっているゴブリンアーチャーの方へと小走りで向かっていった。
「油断するなよ」
背中に声をかけ、俺は先ほど『罠』の反応があった草むらの辺りへと足を踏み入れた。目を凝らして足元を調べると、すぐにその正体が判明する。
「おじさん、何してるの?」
生き残りにトドメを刺して戻ってきたリサが、しゃがみ込んでいる俺を不思議そうに覗き込んできた。
「これを見てくれ」
俺は足元を指差した。
そこには、大人のスネほどの高さで草が、固く結び合わされていた。シンプルだが効果的だ。
「うわ、いやらしいわね……。こういう罠って、ゴブリンが知恵を絞って作ったのかしら。それとも、ダンジョン自体が自動で生成してるの?」
「さあな。どっちにしろ、悪意の塊には違いない」
俺は腰のウルフソードを抜き、結ばれた草の結び目をスパッと両断して罠を解除した。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




