↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/58

034 KC Pulled Pork

熱田神宮を後にして、周辺の路地を散策してみた。


だが、どれだけ薄暗い路地裏を歩き回っても、レア店のテントの影すら見当たらなかった。


「まあ、途中本屋で登山用品の雑誌も買えたことだし、よしとしよう」


レア店探しを諦めて電車に乗り、夕方前には自宅の最寄り駅へと到着した。

「明日はリサとダンジョンに潜るし、しっかり体調を整えないとな」


駅前の商店街を歩きながら、夕食のターゲットを見回す。

「昼はきしめんで軽く済ませたから、何かガッツリしたものを……ん!? こんな店あったっけ?」


ふと足を止めた先には、古き良きハリウッド映画に出てきそうな、ネオン管が光るダイナー風のお店があった。換気扇からは肉を焼く、暴力的なまでに香ばしい匂いが漂ってきている。




「いらっしゃいませー!」

「はっ!? 気づいたら店内に、しかもカウンター席に座っているだと!?」


何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。


「ご注文は、何になさいますか?」

星条旗柄のエプロン姿の店員さんが、お冷を置きながら尋ねてくる。


何はともあれ、注文しよう。

手元のメニューを開くと、そこには『カンザスシティBBQ』の文字。


ほうほう、カンザスシティBBQがメインの店か。牛、豚、鳥なんでもじっくり焼いて、トマト、お酢、スパイス、そして糖蜜の甘みに少しの辛味が効いた濃厚なソースが特長らしい。


おっ、プルドポークがあるじゃないか。SNSで見たことがある。巨大な豚肉を低温でじっくり焼き上げ、プルプルのほろほろになったところを手で裂く、とにかくうまそうな料理。




「プルドポークのサンドイッチに、フライドポテト。それと、ビールは……『ブルーバード ベールエール』?」


「お客さん、お目が高い! そのビールはカンザスシティを代表する地ビールです。普通のラガーよりホップの香りと苦味がしっかりしているので、甘辛いKCBBQに合わせるなら絶対ぴったりですよ」


「それじゃ、それで!」




注文を終え、アメリカンテイストな店内のインテリアを眺めながら待つ。


壁に飾られた古いナンバープレートや、赤と白のチェック柄の床。まるで映画の世界に迷い込んだみたいだ。


そんな中、一枚の張り紙が目に留まる。


『ダンジョン肉買い取ります!』


いつか食べようと思いつつ、結局『道具』のこやしになっているイノシシ肉をここで売って、美味いBBQにしてもらうのもありかもしれないな。


『道具』の中は時間が止まっているみたいだから、大丈夫なはず。






「はい、お待たせしました!」


ドカン、と目の前に木製のプレートが置かれた。

山盛りのプルドポークが挟まれた巨大なサンドイッチ、溢れんばかりのフライドポテト、そして琥珀色に輝くベールエールのグラス。


「いただきます!」


まずは、大ボリュームのプルドポークサンドイッチを両手で鷲掴みにし、大きく口を開けてかぶりつく。

ふんわりとトーストされたバンズを噛み切ると、中からホロホロに解けた豚肉が雪崩のように口の中へ押し寄せてきた。


「うまい!」


低温でじっくりスモークされた豚肉は、噛む必要がないほど柔らかい。そこに絡みつくカンザスシティ特有のBBQソース。トマトとお酢の爽やかな酸味と糖蜜(モラセス)の深い甘み、後から追いかけてくるピリッとしたスパイスの辛味が、豚肉の強烈な旨味と混ざり合って爆発する。溢れ出した肉汁とソースが指を伝って落ちるのも構わず、無我夢中でかぶりついた。




口の中がソースの味一色になったところで、ブールバード ベールエールのグラスを煽る。

柑橘系を思わせる華やかでフルーティーなホップの香りが鼻腔を抜け、その直後にガツンとした強い苦味と麦芽のコクが喉を打つ。このキレのある苦味が、プルドポークの濃厚で甘辛いソースの余韻を綺麗に洗い流し、口の中を完璧にリセットしてくれた。店員さんの言う通り、これは最高のペアリングだ。




そして、脇を固めるフライドポテトに手を伸ばす。

ここのポテトはただの塩味ではない。表面に赤いパウダーがたっぷりとまぶされており、さらにその上から、ドロッとした濃厚なチェダーチーズソースが惜しげもなくかけられていた。これぞアメリカンジャンクの極み。


熱々のポテトを頬張ると、外はカリッ、中はホクホク。スパイスのパンチの効いた塩気とガーリックの風味を、まろやかで暴力的なコクのチーズソースが包み込む。こんなものを食べたらビールが止まるわけがない。




甘辛いプルドポーク、スパイスとチーズに溺れたポテト、そして苦味の効いたベールエール。

カロリーの暴力とも言える背徳に身を委ね、俺はあっという間に全てを平らげたのだった。




「ごちそうさまでした」


家の近所に、まさかこんな本格的なカンザスシティBBQを楽しめる店があるなんて思ってもみなかった。ダンジョンができなかったら、永遠に気づかなかったかもしれない。

食後の余韻に浸りながら、テーブルの脇に立てかけられたメニューを改めてめくってみる。


・ブリスケット(牛肩ばら肉。KCBBQの代名詞)

・バーント エンズ(ブリスケットの焦げ端。KCBBQの至宝)

・ポーク ベリー バーント エンズ(豚肉版バーント エンズ。肉のキャンディ)

・ポーク スペアリブ(骨付き豚あばら肉)

・スモークド チキン(鶏の燻製ロースト)

・自家製スモークソーセージ

…………


そこには、牛、豚、鳥のあらゆる部位を燻した魅力的なラインナップがズラリと並んでいた。


「……これは、全メニュー制覇しないとな」


明日からのダンジョン探索を頑張るための、最高のモチベーションを見つけてしまった。俺は満腹の腹をさすりながら、上機嫌でダイナーを後にしのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。