033 都きしめん
月曜日の朝。
「まずい、やることがない」
俺は庭に湧いたスライムを木の剣で『プシュー』と潰しながらぼやいた。
昨日から続く二連休。快適な生活を手に入れたのは良いが、流石に今更、一日中庭でスライム潰しをする気にはなれない。ダンジョンでのバトルを味わった後では、完全に作業感が強すぎるのだ。
「ゴールドは結構貯まってるし、テントの店……レア店っていうのか? あれを探しに行ってみるか? でも、こういうのは物欲センサーが働いて見つからないってのが相場だし、どうするかな……」
数匹スライムを潰したところで早々に飽きた俺は、部屋にゴロンと寝転がった。
ぼんやりと部屋を見渡していると、ラックに飾った御朱印帳が目に留まる。
「神社巡りでもするか」
思い立ったが吉日。俺は軽く身支度を整え、名鉄に飛び乗って名古屋市にある熱田神宮へと向かった。
鳥居をくぐり、一歩境内へ足を踏み入れると、スッと空気が変わったのが分かった。
樹齢数百年はあろうかという鬱蒼とした木々に囲まれ、外の喧騒が嘘のように静まり返っている。玉砂利を踏む『ザクッ、ザクッ』という足音だけが心地よく耳に響いた。
「なんだかんだで、初めて来たな。たしか、ニワトリと白いヘビがいるんだっけ?」
境内を歩きながら辺りを見回す。神の使いとされる神鶏が元気にお散歩している。
手水舎の近くにある巨大な『大楠』は見事だった。この巨木に住むという白蛇の姿を探してみたものの、そう簡単には姿を見せてはくれないらしい。
手水舎で心身を清め、本宮へと進む。
厳かな雰囲気の中、賽銭箱に硬貨を入れ、二拝二拍手一拝。これからのダンジョン探索での安全を念入りに祈願した。
参拝後、授与所に立ち寄って御朱印をいただく。真っ白なページに、力強く流麗な筆運びで書かれた墨文字と鮮やかな朱色の印。心が洗われるような美しさだった。
広い境内を散策しているうちに、ちょうどお昼時になった。
熱田神宮に来たのなら、立ち寄るべき場所がある。木々に囲まれた境内にある食事処、『都きしめん』だ。
ここは定番の『都きしめん』を注文する。
「都きしめん、おまたせしました」
出来たてのきしめんを受け取り、緑に囲まれた開放的な席に座る。
「いただきます」
目の前の都きしめんから出汁の効いた醤油の香りと共に、熱々の湯気が立ち上っている。
濃い琥珀色のつゆの上には、ほうれん草、味の染み込んだ油揚げ、しいたけ、そして『都』の文字がピンク色で入ったかまぼこ。その隣で削りたての鰹節が湯気を浴びてゆらゆらと踊っていた。
まずはスープをひと口。
「……美味い」
見た目は色が濃くて塩辛そうに見えるが、全くそんなことはない。濃厚な出汁の旨味が前面に出ており、そこに醤油のまろやかなコクと甘みが加わって、非常に奥深い味わいになっている。五臓六腑に染み渡るような、優しくて力強いスープだ。
続いて、主役のきしめんを箸で持ち上げる。
木漏れ日を受けて光輝く平打ち麺を勢いよくすすると、滑らかな舌触りとともに口の中に滑り込んでくる。薄いのにモッチリとした確かな弾力があり、噛むたびに小麦の甘みとつゆの旨味が口の中で見事に調和する。
甘辛く煮付けられたジューシーな油揚げをかじると、中から熱々の旨味スープがジュワッと溢れ出す。シャキシャキのほうれん草で口の中をリセットし、再び平打ち麺をすする。境内の清々しい空気の中で食べるきしめんは、控えめに言って最高だった。
スープの最後の一滴まで飲み干し、ふうと一息ついてお茶をすする。
「ごちそうさまでした。由緒ある神社の境内で食べるきしめん、運気がめちゃくちゃ上がってレア店に出会えるのでは?」
俺は器を返却し熱田神宮を後にするのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




