031 ラーメンセット
神社の鳥居をくぐり抜けた時、腹の虫がグゥーーと盛大に鳴った。
「さて、昼はどうしよう」
新しい御朱印帳とアウトドア料理の本が入った袋を提げ、家の方角へ歩きながら店を探す。
今日は日曜日。大通り沿いのファミレスや回転寿司の駐車場はどこも満車で、店内は楽しそうな家族連れでごった返しているのが窓越しにも見えた。休日の昼時に、おじさんが一人で突撃するには少しばかりハードルが高い。
喧騒を避けて裏通りに入ると、色褪せた赤い暖簾が風に揺れる、年季の入った中華料理屋が目に留まった。ガラス戸から中を覗くと、チェーン店とは違って比較的空いているようだ。
思い切って引き戸を開ける。
「いらっしゃい!」
厨房から、大将の威勢の良い声が飛んできた。
油で少し黒ずんだ赤いカウンター席に腰を下ろし、壁に貼られた短冊メニューを見上げる。
ラーメン、チャーハン、餃子、麻婆豆腐、青椒肉絲……。
テレビの特集なんかで見たことはあるが、これが噂の『町中華』というやつか。色々と目移りするが、初めて入る店だし、王道の『ラーメンセット(ラーメン、半チャーハン、餃子)』でいいかな。
ふと奥の座敷席を見ると、昼間っから瓶ビールを傾けてご機嫌に飲んでいるおじさんの姿があった。
流石に今から酒を飲むと、せっかくの休日なのに午後から何もできなくなってしまうよな……。でも、最高にうらやましい。
俺は湧き上がるアルコールへの思いをグッと堪え、無難なところでラーメンセットと、ウーロン茶を注文した。
厨房から中華鍋をリズミカルに振るう豪快な音が聞こえ、やがてカウンター越しに料理が提供された。
「へい、お待ち!」
目の前に並べられたのは、まさに昔ながらの王道を行くラーメン、チャーハン、餃子の黄金トリオだった。
「いただきます」
まずはラーメンから。
澄んだ醤油色のスープに、ナルト、メンマ、海苔、そしてチャーシューが乗った、絵に描いたような中華そばだ。レンゲでスープをすすると、鶏ガラと醤油のホッとするような優しい味が、じんわりと五臓六腑に染み渡っていく。
中細のちぢれ麺をズズッと勢いよくすする。スープがしっかり絡んだ麺を噛みしめると、昔懐かしい醤油の香りが鼻を抜けていった。
そうそう、こういうのでいいんだよ。
続いて、出来立ての半チャーハン。
レンゲですくうと、ラードでコーティングされた米粒がパラリと崩れる。熱々の米を口に運ぶと、香ばしい焦がし醤油の風味と、細かく刻まれたチャーシューが一気に弾けた。パラパラなのに決してパサついてはいない、職人技の絶妙な炒め具合だ。
そこで、焼き色美しい餃子に箸をのばす。
酢醤油とたっぷりのラー油に潜らせてからかぶりつくと、パリッとした香ばしい薄皮の食感の直後、中からニンニクとニラの効いた熱々の肉汁がジュワッと溢れ出してきた。
ラーメンをすすり、チャーハンを掻き込み、餃子にかぶりつく。
炭水化物と脂の暴力。だが、これがたまらなく旨い。ウーロン茶で口の中の油をリセットし、再びラーメンへ向かう無限ループに突入する。
あっという間にすべての皿を平らげ、俺は最後の一滴まで飲み干したウーロン茶のグラスを置いて息を吐いた。
「ごちそうさまでした」
満腹感と幸福感に包まれながら立ち上がり、ふと奥の座敷席を再びチラ見する。
ビールを飲んでいたおじさんは、先ほどよりもさらに顔を真っ赤に染まっていた。至福の表情だ。
「次は、夜に来て中華をツマミに一杯やるか」
俺は新しいの楽しみを一つ見つけ、心の中でそう決意しながら店を後にした。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




