029 板わさとカップそば
巨木の下で昼食を終え、俺たちは来たルートを戻ってダンジョンの出口へと向かった。
ダンジョンから出ると、いつになく大勢の探索者たちで溢れかえっていた。
迷彩服を着た若者グループや、ごつい防具で身を固めたおじさんたち。順番待ちの列が、換金受付と更衣室の前で長く伸びている。
「うわっ……なんでこんなに混んでるんだ?」
俺が顔をしかめると、リサがスマホの画面を見ながら苦笑した。
「あー、おじさん、今日土曜日じゃん」
「なるほど。完全に曜日の感覚がなくなってたわ」
週末のダンジョンは、本職の探索者だけでなく、会社休みの副業勢や学生が押し寄せるため、どうしてもこうなるのだ。
「こりゃ、換金も更衣室もかなり時間がかかりそうだな」
「それじゃ、今日はここで解散しよっか。明日もこんな感じだと思うから、次の探索は月曜日でいい?」
「ああ。休日を取って体を休めるのも仕事のうちだからな。一日だけで大丈夫か? 二日くらい休んでもいいが?」
「うーん、そうしよっか。これからは土日休みにしよう」
「ああ。それじゃ、また火曜日に」
「はーい。お疲れ様、またねー!」
リサは軽く手を振って、更衣室の列へと並んでいった。
俺も本日の換金を諦め、更衣室の列に並ぶ。
ダンジョン周辺の飲食店も、探索者たちで大混雑していた。
外食は諦めて、いつものスーパーへと立ち寄る。
惣菜コーナーを覗いてみたが、黄色い割引シールが貼られた商品は一つもなかった。
「今日は割引惣菜なしか……。アイテムボックスのイノシシ肉で何か作るか? いや、今日はなんだかんだで疲れたし、今から料理するのはめんどいな。カップ麺でいいか」
特売コーナーに積まれていた、緑色のパッケージでお馴染みのカップそばを買い物カゴに放り込む。
「せっかくだから、ちょっとしたツマミも欲しいな」
店内をブラブラしていると、賞味期限が迫って『30円引き』のシールが貼られたかまぼこが目に入った。
「よし、こいつを板わさにするか」
アパートに帰宅し、すぐに電気ケトルに水を入れてスイッチを押す。
お湯が沸くのを待つ間に、かまぼこを板から外し、1センチほどの厚さに切り分ける。小皿に盛り付け、チューブのわさびを添え、あっという間に『板わさ』の完成だ。
板わさを作っている間に沸いたお湯を緑のカップそばに注ぎタイマーをセット。
グラスに氷を入れ、芋焼酎と水を1対2の割合で注いで晩酌の準備は完了だ。
「いただきます」
まずは芋焼酎の水割りをひと口。冷たいアルコールが、歩き疲れた体にじわじわと染み渡っていく。
わさびをたっぷりとつけたかまぼこに、醤油をちょんちょんと付けてを口に運ぶ。
弾力のあるかまぼこを噛みしめると、魚のすり身の素朴な甘みが広がる。そこに、わさびのツンとした辛味が鼻へ抜け、醤油の塩気が全体の味をキュッと引き締める。
「ア”ア”ッ! わさびを付け過ぎた!」
涙目になりながら鼻をつまむ。
シンプル極まりないツマミだが、これが芋焼酎のまろやかな甘みに恐ろしいほどよく合うのだ。
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
タイマーが鳴り、3分経過を知らせてくれた。
お湯を入れておいたカップそばの蓋を剥がし、後乗せのサクサクかき揚げをつゆに浮かべる。七味唐辛子をパラリと振りかけ、箸でそばをすくい上げる。
湯気と共に、鰹出汁と醤油の香りがふわりと立ち上る。
ズズッと音を立ててすする。
「うんうん、これこれ」
麺に、濃いめの関東風のつゆがよく絡む。
なんてことのない、昔から食べ慣れたインスタントの味。だが、それがいい。ダンジョンという非日常の緊張感から解放された今、このチープで変わらない味が、妙に心をホッとさせてくれる。
つゆを吸ってフニャッとしたかき揚げにかじりつき、桜エビの香ばしさを味わいながら、残りの芋焼酎をグイッと煽った。
「さて、明日の日曜日は完全にオフだが……何をしようかな」
たまにはダンジョンのことを忘れて、ゆっくり羽を伸ばすのも悪くない。
カップそばをすすりながら、明日の休日の過ごし方に思いを巡らせるのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




