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027 牛の角

ダンジョンを出て、すっかりうす暗くなった空を見上げる。


「で、どうする? この時間だと結局、居酒屋か焼肉とかになるけど……」

「焼肉! 焼肉行こう!」


俺の提案に、リサは食い気味に即答した。若さゆえか、肉を欲するのだろう。




俺たちは駅前にあるチェーン店の『牛(うし)の角(つの)』へと入店した。

案内されたテーブル席に座り、卓上のタッチパネルを操作する。


「さて、食べ放題の牛の角コースでいいか?」

「うん! 飲み放題は、どうする?」

「そんなに飲まないよ。単品でいいだろう」

「そだね、それじゃ注文しよっか」


俺たちは食べ放題コースを選択し、生ビール中ジョッキを2つ注文した。

すぐにビールが運ばれてくる。


「ボス討伐、お疲れ様ー」

「お疲れーっ! 乾杯!」


カチンとジョッキを合わせ、冷えたビールを喉に流し込む。疲労した体に染み渡る炭酸と麦の苦味がたまらない。




すぐに注文した肉たちが次々とテーブルを埋め尽くした。


まずは看板メニューの『皇帝カルビ』だ。網の上にドカンと乗せると、ジューーッ! という魅惑的な音と共に、分厚い肉から溶けた脂が滴り落ち、勢いよく炎が立ち上る。


「おおっ、すごいすごい!」

リサがトング片手に目を輝かせる。


表面にこんがりと焦げ目がつき、食べごろになったところで、キッチンハサミで食べやすい大きさに切り分ける。きらめく分厚い肉を口に放り込むと、濃厚な脂の甘みがジュワッと溢れ出した。焦げたタレの香ばしさと肉汁の旨味が暴れ回り、すかさずビールで追いかけると、口の中で極上のマリアージュが完成する。




続いて『秘伝のたれ漬ハラミ』。

壺の中からタレをたっぷりと吸い込んだ肉を網に広げる。ニンニクと醤油の効いたタレが焦げる匂いが、暴力的なまでに食欲を刺激してきた。

焼き上がったハラミを頬張ると、カルビとは違って驚くほど柔らかい。赤身の旨味がギュッと詰まっており、噛み締めるほどに特製ダレの深いコクと肉の味わいが混ざり合う。これは無限に食べられるやつだ。




箸休め? に網の隅でスタンバイさせていた『にんにくホイル焼き』も、良い感じに仕上がってきた。

アルミホイルの中でごま油がグツグツと煮立ち、キツネ色に揚がったニンニクの粒から食欲をそそる香りが漂う。フーフーと息を吹きかけ、一口でパクリ。


「熱っ、うまっ……!」

油を吸ってホクホクになったニンニクが、口の中でとろける。




「かぁーっ、最高だね!」

リサも幸せそうに肉を頬張っている。





網の上でジュージューと音を立てて焼ける肉を育てながら、俺は昨日の夜、思案したパーティーのルールを提案することにした。


「正式にパーティーを組む以上、いくつかルールを決めておきたいんだが。いいか?」

「うん、いいよ」


カバンからメモ用紙を取り出し読み上げる。




「一つ目。どちらかが撤退要求をしたら、絶対に拒否しないこと。虫の知らせとかでも、なんとなくでも、嫌な感じがしたら遠慮なく言ってくれ」

「えっ、そんな理由でもいいの?」


リサがトングを持った手を止めて、目を丸くする。


「ああ。そういう理屈じゃない直感が、生死を分けたりする……かもしれないからな。嫌な予感ってのは大抵当たるんだよ」

社畜時代、何度ひどい目に合ったか。

「なるほどね、分かった」




「二つ目。勝手に単独行動しない」

「それは当たり前だね」




「三つ目。初見の敵や罠、未知のアイテムには勝手に触らないこと。……実は言ってなかったが、俺は『鑑定』『罠発見』『罠解除』のスキルを持っているんだ」


俺の言葉に、リサの動きが完全に止まった。

「……えっ? それ、どこで手に入れたの!?」


「東京の神保町でな。謎店じゃなくて、裏路地に立ってた怪しい男から買った。ついでに『索敵』も持ってるぞ」


「はああ!? おじさん、運良すぎない!? 私なんてまだ一回もレア店、遭遇したこと無いんですけーど!」

騒ぐリサをなだめつつ、俺はルールの続きを説明する。




「四つ目。相方が負傷したら救助を最優先。『いのちだいじに』ってやつだな」

「うんうん、命は一番大事だよね。大賛成」




「五つ目。ドロップは50:50。売らずに残すドロップアイテムはパーティーの共同資産とする」

「オッケー」




「最後に六つ目。消耗品も共同資産とする。例えばポーションを使用したら、後で二人で半分ずつゴールドを出して補充するってことでどうだ?」

「うん、分かった」


リサは網の上のハラミをトングで裏返し、焦がさないように真剣な眼差しで肉を育てながら頷いた。


「でも、それなら回復アイテムの数を揃えておいたほうがいいね。おじさんは今、ポーションとか何本持ってるの?」


「買ったのは『ポーションⅠ』が3本。あと『毒消し草』を5個、『聖水』が3本。薬草はスライムがドロップしたのがたくさんある。あとで渡そう。それから……●●駅近くの謎店で『金の楊枝』ってのを3本買った」


「金の楊枝? なにそれ?」

「石化を回復するアイテムらしい」


「せ、石化!?」

恐ろしい状態異常の名前に、リサがビクッと肩を揺らした。


「落ち着け。最前線にいる攻略組の情報を見ても、まだ石化攻撃をしてくるモンスターの報告はない。当分は遭遇することもないだろう」


「もー、脅かさないでよ……」


リサはホッと息を吐くと、網の上で完璧な焼き加減に育ったハラミを引き上げ、たっぷりとタレに潜らせてからパクリと口に放り込んだ。


「よーし、ルールも決まったし、これからじゃんじゃんダンジョン攻略しちゃおう!」

「おう! 無理のない範囲でな」


俺たちは残り少なくなったビールのジョッキを持ち上げ、カチンと音を立てて乾杯した。




宴のシメに、『冷麺』を注文した。


氷が浮かんだ澄んだスープに、ツルツルと輝く麺。お酢をひと回ししてすする。

強いコシのある麺が心地よい弾力で歯を押し返し、牛骨の旨味が溶け込んだ冷たくてさっぱりとしたスープが、焼肉の脂で火照った胃袋を優しくクールダウンしてくれる。キムチの酸味と辛味が絶妙なアクセントになり、あっという間に平らげてしまった。




「ふー、食べた食べた!」

「ごちそうさまでした」


俺は空になったジョッキを見つめながら、これから始まる新しい探索者ライフに、新たな期待を感じていた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

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