026 ホブゴブリン
ボス部屋からワープ部屋に通じる扉は、一方通行なのかピクリとも動かなかった。なので部屋の隅にあった別の扉を開けると、ボス部屋近くの通路へと出た。
振り返ると、重い音を立てて扉が閉まる。その瞬間、扉はただの石壁と同化し、どこに継ぎ目があるのか全く分からなくなってしまった。試しに押して見るがピクリともしない。
「一方通行で、閉まると壁とほとんど見分けがつかなくなるのか。よくできてるな……」
ダンジョンの構造に感心しつつ、俺たちは再びボス部屋の扉の前に立った。
「いくぞ。準備はいいか?」
「うん! 大丈夫!」
リサが小さく深呼吸をしてから、力強く頷く。
俺は扉を押し開け、二人で部屋の中へ踏み込んだ。
今回の部屋の中央に陣取っていたのは、先ほどのゴブリンウォーリアーとは違った。
身の丈180センチほどはある筋肉質の緑色の肉体。太い丸太のような木製の棍棒を肩に担ぐ、ひと回り巨大な個体――ホブゴブリンだ。その周囲には、相変わらずゴブリンが4匹配置されている。
「小火炎波!」
敵が動き出すより早く、俺は間髪入れずに範囲魔法を放った。
赤い炎の波が部屋をなめ尽くし、取り巻きのゴブリンたちを一瞬で黒焦げにして一掃する。チャリン、チャリンとゴールドの落ちる音が響いた。
「いつでも援護できるようにしておくからな」
「了解!」
俺の放った炎の波でダメージを負い、いきり立って咆哮するホブゴブリン。
その巨体に向けて、リサが鋼鉄の剣を手に真っ直ぐ飛び出していった。
『グガァァッ!』
怒り狂ったホブゴブリンが、唸り声と共に太い棍棒をやたらめったら振り回す。一撃でもまともに喰らえば、間違いなく吹き飛ばされるだろう。
だが、リサは怯むことなく、その大振りの攻撃を紙一重で上手くかわしていく。
隙をついてホブゴブリンの太ももや腕に鋭い斬撃を叩き込んだ。
ヒットアンドアウェイ。
力任せのホブゴブリンに対し、リサは冷静にダメージを蓄積させていく。やがてホブゴブリンの動きが、目に見えて鈍り始めた。
そこへ、リサが大きく踏み込んだ。
「でりゃーっ!」
気合いの乗った鋭い声と共に、鋼鉄の剣が一閃する。
刃はホブゴブリンの太い首筋に深く食い込み、次の瞬間、巨大な緑色の体は弾けるように光の粒子へと変わった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
戦闘を終えたリサが、剣を下ろして肩で大きく息をつく。
「お疲れ様。すごくいい動きだった。何か武術でもやってたのか?」
「ありがと! 小さい頃、スポーツチャンバラをちょっとやってただけ。それより、宝箱は!?」
息を整えるのもそこそこに、リサは目を輝かせてドロップ品を探す。
だが、ホブゴブリンが倒れた場所には、ゴールドが落ちているだけだった。
「あれ!? ゴールドだけ!? 宝箱は!?」
「……どうやら、さっきのは初回撃破の確定ボーナスだったか、単なる確率で毎回出るわけじゃないらしいな」
確かネットの掲示板の情報でも、ボス部屋の宝箱ドロップは確率で確定で無いと愚痴っている書き込みがあった気がする。ダンジョンのシステムは、そう甘くはないようだ。
「そっかー、残念。……この後、どうしよっか」
「いい時間だし、せっかくだから地下6階を一目だけ見てから帰るか」
「賛成!」
俺たちは再び奥の扉からワープ部屋に入り、中央の水晶を通り過ぎて、さらに下へと続く石階段を下りていった。
「階段を降りると、そこは草原だった」
リサが有名な小説の一節のような感想をつぶやく。
「ネットで見て知ってたけど……実際に自分の目で見ると、圧倒されるな」
地下深くへと潜ってきたはずなのに、俺たちの目の前には、どこまでも続く青々とした大草原が広がっていた。天井の代わりに、青空が遥か高くに広がっており、心地よい風まで吹いている。
そして、草原の彼方に、天を突くような巨大な木が一本そびえ立っていた。
「あのおっきい木の中に、7階に降りる階段があるんだよね」
「ああ、そうだな。攻略組の情報だと、この6階の大草原は、今まで出てきたがモンスターが襲ってくるらしい。ここから先は、俺たちもちゃんと連携を考えないとな」
「そうだね。上手く立ち回らないと」
リサはどこまでも続く草原を見渡しながら、ふうっと満足げに息を吐いた。
「よしっ、今日はもうおしまい! 初めてのボス撃破のお祝いに、美味しいごちそう食べに行こう、おじさん!」
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




