021 ゴブリン
翌朝。俺は準備を整え、ダンジョンへとやってきた。
「おはようございます。これ、東京のお土産です」
「わぁっ! ありがとうございます!」
受付カウンターで東京駅で買ったオシャレな焼き菓子を渡すと、俺にテレビ出演を勧めた受付嬢はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「テレビの収録、どうでした? 芸能人に会えましたか?」
「ええ、司会をやってた芸人さんに会えましたよ。収録の後は東京観光もできて、いい息抜きになりました」
「いいなあー。私も探索者になろうかな。テレビの放送、楽しみにしてますね!」
「……いや、多分ほとんど映ってないと思いますよ」
俺は苦笑交じりに首を振った。
俺の競技成績は下から数えた方が早くて、特筆すべき見せ場はなかった。ステータスのボーナスポイントを振ってないからね。というか、後半は飽きて手を抜いていたのだ。
おじさんが空気を読まずに本気を出して活躍する姿より、テレビ局が求めているのはイケメンの華麗な活躍か、美少女のお色気、笑いを取る若者のリアクションだろう。
俺のような地味なおじさんの出番は、十中八九カットされているはずだ。
着替えを済ませ、ダンジョンに入る。
テンポよく下へ進み、あっという間に地下5階へと続く石階段の前に到着した。
「まずは一回、相手にしてみるか。それにしても……」
周囲を見渡すが、人っ子一人いない。
「田舎のダンジョンだと、ここまで潜ってこれる探索者もなかなかいないのか。人の目を気にしなくていいのは楽だけど、なんか寂しいな」
地下5階へ足を踏み入れる。
通路の雰囲気はこれまでと大差ない。しばらく歩くと、前方からペタペタという素足の足音が聞こえてきた。
角から姿を現したのは、子供ほどの背丈に緑色の肌、ボロボロの腰巻きを身につけた小鬼――ゴブリンだ。手には錆びた鉈のような武器を握っている。
索敵スキルのおかげで、相手が気づくより早くこちらが捕捉していた。
「火の矢!」
ゴブリンがこちらに気づいて奇声を上げる直前、俺の指先から放たれた炎の矢が真っ直ぐに飛んでいく。
『ギャッ!?』
矢はゴブリンの胸元に直撃し、そのまま一瞬で全身を炎で包み込んだ。生々しい断末魔を聞く暇もなく、ゴブリンは光の粒子となって四散する。
床には、チャリンと9枚のゴールドが落ちた。
「ふう……。これならゲーム感覚でストレスも無いな」
昨日のネット掲示板で見た『人型への抵抗感』だが、こうして遠距離魔法で消し炭にしてしまえば、生々しい感触も罪悪感も湧きようがない。
「今日は、魔法だけで倒すか。慣れたら、近接も試してみないとな……」
その後も『索敵』スキルでゴブリンの位置を把握しながら、安全な距離から魔法を使ってサクサクと討伐を進めていく。ドロップするゴールドを拾い集めながら、俺はふと、ネットで仕入れたもう一つの情報を思い出した。
「確か、地下5階の最奥にはボス部屋があるんだよな」
ネットの書き込みによれば、ボス部屋に出現するボスモンスターはランダム。
接近戦に特化した『ゴブリンウォーリアー』、魔法やバフを使ってくる『ゴブリンシャーマン』、あるいは一回り巨大で強力な『ホブゴブリン』。いずれかの上位種が、数匹のノーマルゴブリンを取り巻きとして引き連れて登場するという。
「……さすがに、ソロだと厳しいか」
俺のステータスと魔法の火力なら、圧倒できるかもしれない。だが、万が一ということがある。命に関わるリスクはできるだけ減らして、絶対に無茶はしたくない。
「最近は、パーティーの仲間探しに探索者専用のマッチングアプリを使うみたいだよな。俺も登録してみるか? ただ、田舎はそもそも探索者が少ないからな。いっそ、人が多い都市部のダンジョンに移動して活動するのもありか……」
ソロの気楽さは捨てがたいが、いずれさらに下層を目指すなら、パーティーを考えないといけないだろう。
俺は今後のキャリアプラン――いや、探索方針を頭の中でこねくり回しながら、現れたゴブリンに次々と魔法を叩き込み、地下5階のマップを埋めていった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




