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002 コロッケ弁当

それから俺は、時間を忘れてスライム狩りに没頭した。


憎き元上司の顔を思い浮かべては、ひたすらビニール傘で突き刺す。突いては消え、突いては消えの繰り返し。


ふと空を見上げると、辺りはすっかり暗くなっていた。

時計に目をやると、時刻は夜の七時を回っている。


「あ、もうこんな時間か……」

ぐぅぅぅ……と、情けない音が腹から鳴り響いた。


そういえば、朝にトーストをかじってから、昼飯も食べずにスライムを討伐し続けていたんだった。さすがに空腹の限界だ。俺はスライム狩りを切り上げ、買い出しのために近所のスーパーへと向かうことにした。




道中、朝方見かけた空き地の『洞窟』――ダンジョンの前を通りかかる。

朝のようなパニック状態とまではいかないが、それでもまだスマホを向ける野次馬が何人も群がっていた。


黄色い規制テープの奥で不気味に口を開ける暗闇を見やりながら、「中は一体どうなってるんだろうな」と、好奇心がふと頭をよぎる。とはいえ、今の俺にはダンジョン探索よりも夕飯の確保のほうが最優先だった。




スーパーの惣菜コーナーに着く頃には、お腹(なか)と背中がくっつきそうだった。


半額の黄色い割引シールが貼られた、安いコロッケ弁当を手に取る。無職の身には、このシールが何よりの救いだ。




アパートに帰り着き、真っ暗な部屋の蛍光灯をつける。

ちゃぶ台に弁当を置き、台所に置いてある紙パックを手に取った。安物の芋焼酎だ。残りをガラスのコップに注ぎ入れると、ほんの少ししか残っていなかった。


「はぁ……」


思わずため息が漏れる。蛇口をひねり、水道水をドボドボと足した。焼酎1に水8……いや、1対9くらいの、ただほのかに芋焼酎の匂いがするだけの水割りの完成だ。


弁当のフタを開け、中濃ソースをコロッケにたっぷりと回しかける。

ドロッとした茶色いソースが、しんなりとした衣に染み込んでいき、ジャンクな匂いが漂う。


箸で半分に割ると業務用っぽい、ペースト状に潰されたジャガイモが顔を出した。それを一口かじり、ソースのまみれのコロッケを、水みたいな薄い水割りを流し込む。


美味くないし、当然ちっとも酔えやしない。




今日一日で、世界は激変した。


隣の部屋には教会ができ、庭ではスライムがポップし、俺はレベルアップしてゴールドを手に入れた。


でも、俺が無職で、明日からの生活の保証が何一つないという現実は、何も変わっていない。


先の見えない得体の知れない不安感と、ちっとも酔えない水みたいな水割り、ソースの味しかしないボソボソのコロッケ。


まさに現状の俺を的確に表現しているといっていいだろう。


「はぁぁぁ…………」


今日一番の、ひどく大きなため息が、六畳間のアパートに溶けていった。


せめて不安を忘れるくらい酔えるアルコールがあれば……。

明日は絶対忘れずに、酒を買おう。4リットルペットボトルのやつを……。


俺は不安を抱えたまま眠りにつくのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

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