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018 カレー

皇居の広大な敷地を抜け、大手町方面へと向かって歩く。


近代的なガラス張りの超高層ビル群が立ち並ぶビジネス街のド真ん中に、ぽつんと異質な空気を放つ一角があった。


東京都指定旧跡『将門塚』だ。

平安時代の武将、平将門の首を祀ったとされるこの場所は、移転させようとするたびに不吉な事故が起こるという都市伝説で有名な、東京屈指の強力なパワースポットである。


玉砂利が敷かれ、綺麗に手入れされた塚の前に立つと、周囲の喧騒がふっと遠のいたような静けさを感じた。


「噂の将門塚……絶対に、失礼のないようにしないとな」


探索者という、いつモンスターに命を奪われてもおかしくない商売をしている身だ。俺は背筋をピンと伸ばし、深い敬意と畏れを込めて、念入りに参拝した。




そこから少し足を伸ばし、次に向かったのは神田神保町だ。


大通り沿いには歴史を感じさせる古書店がズラリと並び、店先に出されたワゴンには日焼けした古本が山のように積まれている。紙と埃の入り混じったノスタルジックな匂いが漂う街並みを歩いていると、やがて別の香りが鼻腔をくすぐり始めた。


「古本とカレーの街……さて、どの店に入ろうか」


時刻はそろそろ昼時。街のあちこちから、食欲を刺激する複雑なスパイスの香りが漂ってくる。スマホで検索しながら美味しそうなカレー屋を探していると、細い路地裏の入り口で、ふと足が止まった。




古びた雑居ビルの陰。薄暗い路地裏に、深いフード付きのローブを羽織った、ファンタジー風の服を着た男がひっそりと佇んでいる。


ん?


あの出で立ち、そして周囲から完全に浮いている存在感。明らかにダンジョン関係の『謎の店』の類だよな……。店舗を構えず、営業しているパターンもあるのか?


俺は周囲に人がいないことを確認し、路地裏へと足を踏み入れた。


「……こんにちは」


意を決して声をかけると、深く被ったフードの奥から鋭い目がこちらを向き、低い声が返ってきた。


「……何がいる」


それと同時に、目の前の空間にウインドウが開いた。


鑑定…… 500G

索敵…… 500G

罠発見…… 500G

罠解除…… 500G


表示された文字を見て、俺は心の中でガッツポーズをした。




ずっと欲しかった『鑑定』スキル! しかも、索敵に罠発見、罠解除まで。これからダンジョンの深い階層へ進むにあたって、ソロ探索者の俺には喉から手が出るほど欲しい必須スキルのオンパレードではないか。


各500G、合計で2000G。日本円にして20万円の出費になるが、庭のスライム貯金が唸っている今の俺には痛くも痒くもない額だ。


「全部購入だ!」


俺はウインドウの項目をすべてタップし、一気に購入した。チャリン、チャリンという小気味良い音が響く。


これで未知のドロップアイテムの正体も分かるし、不意打ちや罠のリスクも減るはずだ。




いい買い物をしたとホクホク顔で路地裏を抜け、俺は目的のカレー屋へと向かった。

選んだのは、雑居ビルの二階にある老舗の欧風カレー店だ。


レトロな喫茶店のような落ち着いた店内。席に案内され『ビーフカレー』を注文すると、まず最初に、ホクホクに茹で上がった皮付きの小さなジャガイモが二つ、バターが添えられて運ばれてきた。


「ん? ジャガイモがついてくるんだ。これは……ジャガイモにカレーをかけて食べるのか? それとも、カレーの中に入れるのか?」


洗練されたおもてなしに、少し戸惑う。


周りの客をこっそり観察してみると、そのままバターを塗って食べている人もいれば、カレーと一緒に食べている人もいる。どうやら自由らしい。


俺は一つ目のジャガイモを二つに割って、バターをたっぷりと乗せてかじりついた。熱々の芋の甘みに、溶け出したバターの塩気が絡み合って、これだけで立派なご馳走だ。




やがて、銀色のグレービーボートになみなみと注がれたカレーと、ライスが到着した。

焦る気持ちを抑え慎重にルーを、ライスにたっぷりとかける。


「いただきます!」


見た目からしてとろみがあって濃厚な、洋食屋のカレーだ。ルーとライスを一緒にすくい、大きく口を開けて頬張る。


「う、うまい!」


最初に飛び込んでくるのは、フルーツや玉ねぎを限界まで煮詰めたであろう、舌を包み込むような深い甘み。その直後、牛肉の濃厚なコクとバターの風味がガツンと押し寄せ、最後に何種類もの複雑なスパイスの辛味がじんわりと輪郭を現す。


ゴロゴロと入っている角切りの牛肉は、スプーンで簡単に切れるほどホロホロに煮込まれており、噛むたびに肉の旨味がルーのスパイス感と完璧に溶け合っていく。


残しておいた二つ目のジャガイモを崩してカレーに絡めると、じゃがいもの素朴な甘さが加わり、また違ったまろやかな表情を見せてくれた。


付け合わせの福神漬けで酸味のアクセントを加えながら、俺は夢中でスプーンを動かした。




東京のど真ん中で強力な神様に手を合わせ、欲しかったスキルを手に入れ、極上の欧風カレーを堪能した。


「ふう、ごちそうさまでした」


口元をナプキンで拭いながら、俺は幸せいっぱい大満足になったのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

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