013 テレビ
地下4階。
薄暗い石造りの通路を歩きながら、俺は手元のマップに最後の線を描き込んだ。
「これで地図完成、と。それにしても、誰にも会わないなあ……『小風球』!」
前方の通路の角から、イノシシが現れた瞬間。俺は先手を取って右手の人差し指を突き出した。
指先から放たれた見えない風の球が、空気を切り裂く音と共に真っ直ぐに飛んでいく。
それはイノシシに直撃したかと思うと、無数の鋭い刃となって全身を切り刻んだ。
『ブギィィィッ!』
短い悲鳴を上げて、イノシシは光の粒子となって消滅する。
チャリンというゴールドの音と共にイノシシ肉がドロップした。
「おー、豚トロか。いや、イノシシトロ?」
肉も受付で買い取ってもらうこともできるらしいが、今は特に金に困っているわけでもないのでパス。
「美味そうだし晩飯用にキープでいいか」
俺はウインドウを開き、肉を『道具』に放り込んだ。
「それにしても魔法は便利だな……」
新しい魔法の使用感にもすっかり慣れ、俺は満足してダンジョンを後にした。
ダンジョンを出て、受付でいつものようにゴールドを日本円に換金してもらう。
「はい、〇〇円になります」
若い受付嬢が、トレイに現金を乗せて出してきた後、少しだけ身を乗り出して小声で話しかけてきた。
「あのー、柏木さん。テレビに出てみたくありませんか?」
「はい? テレビ? 俺が?」
突拍子もない提案に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「はい。実は、実力のある探索者さんがどのくらいすごいのかを検証する番組をやるみたいで、出演者を探しているらしいんです」
そう言って彼女がカウンターの下から取り出したのは、『ダンジョン探索者 密着検証特番! 出演者大募集』とデカデカと書かれた派手なチラシだった。
「なるほど。で、なんでまた俺に?」
「柏木さんがこのダンジョンで一番の稼ぎ頭なんで」
「えっ、そうだったの!?」
驚きだ。怪しまれないように換金額を細かく調整していたつもりだったが、塵も積もればなんとやらで、いつの間にか稼ぎ頭になっていたらしい。
「でも、俺みたいな口下手で冴えないおじさんが出て、番組的に大丈夫なのか?」
「そこなんですよ。上からイキってる……ゴホン、元気な若者よりも、柏木さんのような社会人経験のある落ち着いた方の方が、下手なことを言って炎上するリスクが少ないからいいと言われてまして……」
「……なるほど」
協会もコンプライアンスやら炎上対策やらで大変らしい。とはいえ、コミュ症気味で話が上手くない俺で本当に大丈夫なのか?
「希望者が少なくて、本当に困ってるんですよぉ。イキってる人には危なっかしくて頼めないし、社会人経験のある方には、断られるし……」
受付嬢が、潤んだ瞳でこちらを上目遣いに見つめてきた。
うっ、そんな瞳で見つめないでくれ。若くて可愛い女の子に頼まれたら、断れないおじさんの弱いところを突かないでくれ。
「はぁ……交通費とか出演費は出るの?」
「あっ! 出るみたいですよ。出演費一万円に、東京までの新幹線の往復代も全額支給です! 自由席ですけど」
「一万か……テレビって夢のある世界だと思ってたんだけど………………まあ応募してもいいよ」
「はいっ! ありがとうございます! テレビ、頑張ってくださいね!」
彼女は満面の笑みで返事をする。
いや、まだ出演するって選ばれたわけじゃないんだけど。
更衣室で着替えて、スーパーへと向かいながら考える。
それにしても、東京か。
もしかしたら本当に出演することになるかもしれないし、今のうちから東京の美味い居酒屋でもピックアップしておくか。
収録が終わったら、一杯やるのも悪くない。
俺は少し浮かれながら、スマホを取り出して『東京 居酒屋』と検索するのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




