010 焼肉
早めにダンジョンから切り上げた俺は、スーパーで軽く買い出しを済ませて帰宅した。
台所にドロップ品のイノシシ肉(バラ肉)を取り出し、包丁で薄切りにしていく。見た目は完全に上質な豚バラ肉だ。赤身と純白の脂身が美しい層を描いている。大皿に山盛りにした肉と、スーパーで買ってきたパックご飯、そして半額シールが付いてた白菜の浅漬けを並べれば、本日の晩飯の準備は完了だ。
ホットプレートにスイッチを入れ、熱くなってきたところで、一枚目のイノシシ肉をそっと鉄板に並べる。
ジューゥゥゥッ!!
食欲に直接殴りかかるような快音が六畳間に響き渡り、肉の脂が熱せられてパチパチとはぜる。あっという間に火が通り、肉汁が溢れ出てきた。
最初はシンプルに、粗挽きの塩コショウだけで食べる。
熱々の肉を口に放り込み噛み締める。イノシシだし、獣臭いかと思っていたが、驚くほどクセがない。それどころか、脂もしつこくなく、サラリとした上品な甘みが舌の上でとろけていくのだ。美味い。文句なしに美味い。
すかさず、グラスを手にとって喉を潤す。
今日の芋焼酎の水割りは、焼酎1に対して水2。ついにここまで濃さを引き上げた。氷がカランと鳴り、芋の豊かな香りが鼻を抜ける。アルコールが、口内に残る脂をスッキリと洗い流してくれる。
箸休めに白菜の浅漬けをかじり、シャキシャキとした食感と塩気で口の中をリセット。そしてすぐさま、二枚目の肉をホットプレートに広げる。
次は日本人の、エヴァラ焼肉のタレだ。
こんがり焼けた肉をタレの小皿にダイブさせると、熱々の肉の表面でタレが弾け、醤油とニンニクのジャンクな香りが一気に立ち上る。
タレが滴る肉をご飯の上でバウンドさせ、白い飯ごと大きく口の中へ掻き込んだ。
「……最高だろ、これ」
甘辛く濃厚なタレと、イノシシ肉の強烈な旨味。それをふっくらとした米が全力で受け止める。噛むほどに多幸感が押し寄せ、咀嚼する顎が止まらない。肉、飯、焼酎、浅漬け。無限のループが完成してしまった。
そこからはもう、無我夢中だった。
サッパリと食べたい時は、ポン酢にたっぷり浸して柑橘の酸味で食べる。
脂の甘みを楽しみたい時は、醤油にワサビを溶いてツンとした刺激で肉を引き締める。
さらに、チューブの生姜を乗せて醤油を垂らしたり、ニンニクでガツンとパンチを効かせたり。
薬味を変えるたびに肉の表情が変わり、まったく飽きがこない。
気づけば、大皿に山盛りだった1キロのイノシシ肉は、あっという間に俺の胃袋へと消え去っていた。
「食った……当分、豚肉はいいな」
パンパンに膨れたお腹をさすりながら、満足感と共に息をつく。
今日一日で倒したイノシシの数とドロップした肉の量を思い返すと、体感としてドロップ率は1割くらいだろうか。
俺はウインドウを呼び出し、『道具』の欄を確認する。
『道具』の中には、『イノシシ肉(肩ロース)1kg』と『イノシシ肉(ヒレ肉)1kg』などが、手つかずで眠っている。
この肩ロースを分厚いトンテキにするか、それともヒレで贅沢なカツを揚げるか。
未知のモンスター相手に命を懸けるダンジョン探索。その後の晩飯をどうするか、頭を悩ませるこの時間が、今の俺にとって何よりの楽しみになっていた。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




