月と被害者
「まずそこの窓から月明かりが入ってくる、そしてそれが服立てに当たる事で人型の影となる。そしてそれが扉の鏡に当たり反射した光が再度鏡台に反射される事でカーテンに当たり、結果として人影に見えるという訳です」
「それだとなんで昼は見えないんですか?」
「昼は外から入ってくる光が明るいですからね。光は鏡で反射しても少しつづ暗くなるものです」
「なるほど」
「おそらく月明かり、それも角度と明るさの条件が揃った時にだけ現れるので条件が合いやすい季節になって出てきたんでしょう。試しにどれかの配置をずらしてみてください」
「ありがとうございます」
「いえいえ。僕は探偵ですから」
――「今夜も冷えるな…うわっ!」
帰路に着いていると、突然建物から飛び出してきた人物とぶつかり、僕は足を滑らせた。
「おいおい、英国紳士たるもの謝罪ぐらいはしてくれよ」
そう愚痴りながら服に付いた雪を軽く払っていた時、謎の人物が出てきた扉の隙間から、建物の中の様子が目に入った。
「大丈夫ですか!っ…ダメか」
建物の中には女性と思われる、顔の皮が無い遺体があった。
「確かあいつはこっちの方へ行ったな」
幸い雪のおかげで足跡が見える。探偵ならそれだけで充分だ。
「まずいな、この道を抜けたら大通りになってしまう…ん?」
「キャッ」
「おっとっと、ごめんよお嬢さん。怪我は無いかい?…おや、エマ君じゃないか」
「…ノアさん、何やってるんですか…」
「あっ、そうだった…この人の多さ、じゃ無理だな。エマ君、警察を呼んでくれ」
「え?」
――「なるほど。で、戻ってきてすぐ俺らを呼んだと」
「あぁ」
「犯人の姿は分かるか?」
「残念ながら、黒い服で全身を覆っていて見えなかった。あの様子なら体格も信用出来ない」
「そうか…」
「ジャックさん。室内もやはりダメです」
「やっぱりか」
「何がだい?」
「どの事件の時も残された足跡などが一切見つからないんです」
「そうなのか…そこの足跡は違うのかい?」
「その足跡は…」
「多分俺だな。見ての通り室内には発見者や警察とかの足跡はあるのに、肝心の犯人の足跡が見当たらなくてな」
「そうか、外のは証拠にはならないのかい?」
「ええ、あの足跡も追って調べたのですが途中で消えており、足跡から予想される靴はここらじゃよく履かれているものですからね、犯人特定には至らないかと」
「そうか、ありがとう」
「どうするノア。俺らはそろそろ署に戻って証拠品を調べるが」
「僕も家に帰る事にするよ」
「そうか。夜道には気を付けてな」
「お互いにな」
――「ただいまエマ君」
「おかえりなさいノアさん。私はもう寝るのでシチュー食べといてください」
「そうか、おやすみエマ君」
「はい」
――はぁ、せっかくのシチューが冷めてしまったな…
「…少し外でも眺めるか」
そう思い僕は窓の前に椅子を置き、窓を開ける。
「流石に少し冷えるな。紅茶でも入れるか、エマ君…そうだったエマ君は寝たんだった」
全く、何をやってるんだか僕は。
「しかし今夜は月が明るく綺麗だな。人間の心もこれくらい綺麗で明るくあってくれればいいのにな」
そして僕はいつの間にか眠ってしまった。
どんどん味が濃くなってゆく紅茶、その熱い紅茶を冷ますように窓から入ってくる風の音を聴きながら。
僕の寝顔は月明かりに照らされる。




