第9話
パーティー当日、ユミーとロミュドは一緒に王宮のパーティー会場に入った。王宮のパーティーというものだが見たところ通常のパーティーだった。いくつものテーブルの上には豪華な料理や飲物があり、セルフサービスで取ることができるようになっている。
「王宮のパーティーにしては少しフランクすぎる印象ですね」
「私達の婚約を発表するパーティーだからこそ気を使う必要のない雰囲気にしたかったんだ。変に緊張しなくてすむほうがありがたいからね」
「セルフになっている分だけ使用人の数を減らせるからコストは良くなるんですね」
「ははは、そういうことさ」
パーティーで何気ない会話をしながらテーブルの上の料理を食べる。ユミーの口の中に伯爵家では食べられないような格別な味が広がっていく。ユミーにはそれがたまらないらしく、その姿をロミュドは微笑ましく眺めて楽しんだ。
「……さて、バグタスはどこかな?」
「そういえば、先にパーティー会場で待っていると……」
「ロミュド殿下、ここにいらっしゃいましたか。ユミーも」
ユミーとロミュドが料理を楽しみながら談笑していると、バグタスが合流してきた。ロミュドはバグタスのもとに近づくと小声で話し始めた。
「――奴らは?」
「――三人で固まってます」
「――三人?」
「――以前の嫌な幼馴染が加わっています」
「――狙いはユミーか」
「――おそらくは。ですが作戦は変更なく」
「――分かった」
ロミュドとバグタスが内緒話を始めているとユミーは悟ったが、自分が入り込む必要はないと思って美味しそうに料理を食べ続ける。二人の友情にむやみに入り込むのは野暮だと思ったのだ。
だが、とある者たちがユミーの視界に入った瞬間、ユミーは食べる手を止めて警戒する。それは……
「な、なんで……あの三人が一緒に……!?」
パーティー会場の出入り口から、ガソマとノウヴァ、そして二ベス。ユミーの頭の中でパワハラ気質な三人が一緒に現れたのだ。不安になったユミーはロミュドとバグタスを振り返ると、二人はニヤリと笑みを浮かべていた。
「やはり来ましたね。ガソマ・ドパント公爵令息とノウヴァ・ゾディアーリ侯爵令嬢……二ベスまで」
「来てもらわないと逆に困るがな。計画通り見せつけるためには……」
ロミュドとバグタスが三人に気づき、計画通りだと言わんばかりに悪そうな顔をした。その時点で自分の兄と婚約者が企みを持ってこのパーティーを計画したんだとユミーは確信した。
「……何を企んでいるのか知らないけど二人のそばにいたほうが良さそうね」
ユミーはあの三人に絡まれるのは嫌なので、ロミュドとバグタスのそばを離れないことにした。いくら彼らでも王族を相手につけあがることはないだろう。
ただ、ガソマとノウヴァはユミーに絡む状況ではないかもしれない。
「おお、驚きましたな。ガソマ・ドパント様とノウヴァ・ゾディアーリ様のお二人が来られるとは!」
「問題児令息と元侯爵令嬢ですからね……貴族の中でも最下層のカップルと言えるのではないかしら?」
「「…………っ!」」
入ってきたガソマとノウヴァに対して、嘲笑と侮蔑に近い言葉が掛けられている。婚約破棄騒動のことは社交界で広まっているから当然の反応だろう。周囲の貴族たちから歓迎されることはなかった。
肝心の二人は悔しさを押し殺すような笑みを浮かべて黙っているだけ。意外な反応にユミー達は首を傾げた。
「ふむ……以外にも忍耐強かったんだな」
「そうですね。これは予想外です」
「……こちらに来そうです」
ユミーは三人を観察する。ガソマとノウヴァがこれだけ嘲笑されて何も言わないのは、それだけ耐えるだけの目的があるのだと思われる。二ベスは、いつの間にかあの二人と離れているが付かず離れずの距離を保っている。ただ、一緒に入ってきたから三人の目的は同じかもしれない。
(もしかして……私?)
彼らに共通する目的、それはガソマの元婚約者かも……そのことに気付いたユミーは本当に嫌になった。嫌な連中がまとめて絡んでくると思うと頭を抱えたくなりそうだった。
「お兄様、ロミュド殿下……あの三人、いえ二人に挨拶に行くのですか? 私は、その……」
「どうしたユミー、やはり直接会うのは気が進まないか?」
「は、はい……左様でございますね……二人までなら、問題なかったのですが……」
ガソマとノウヴァだけなら大丈夫だったとユミーは思っていた。だが、そこに二ベスのような男まで加わっていると思うとそれだけで気が重くなってしまったのだ。




