第10話
そんなユミーの方にロミュドは優しく手を置く。
「面倒なのは分かるが、あの連中もこちらに気づいたようだ。もうこのまま見て見ぬふりはできないだろう」
「こっちにって……本当に私が目的……」
「だろうな。だが心配するな。ユミーは私が必ず守ってみせるさ」
「ロミュド殿下……ありがとうございます」
ロミュドの言葉でユミーの心は軽くなった。そして、遂にガソマとノウヴァがユミーの前に来てしまったが、ユミーは余裕を持って二人と挨拶を交わす。
「やあ、ユミー! 久しぶりだね! 会えてうれし……って、そちらにいる男、いや、お方は……」
「しばらくぶりだな、ガソマ・ドパント」
「ガソマ様、一体どうしたの……ロミュド殿下!?」
「……どうして、ロミュド殿下がここに……まさか!?」
ガソマとノウヴァ、それに二ベスはロミュドの存在に気づくと、ユミーの前でニヤニヤと上から目線な笑みをしていた顔が消えて、激しく動揺した。バグタスはその取り乱しぶりが予想以上だったのか、含みのある笑みを浮かべている。
「これはガソマ・ドパント公爵令息とその婚約者のノウヴァ・ゾディアーリ侯爵令嬢ではありませんか。お久しぶりです」
「ひ、久しぶりですバグタス殿、ははは……」
バグタスは意味深な態度を取りながらガソマとノウヴァに挨拶をする。二人の後ろにいる二ベスには無表情だ。
「ついでに、取り巻きの二ベスも数日ぶり」
「なっ、ついでに、取り巻きだと……!」
いや、二ベスに対しては「ついで」で「取り巻き」だと断言した。それだけで二ベスの顔は屈辱に歪められる。そんな二ベスを無視して話を進めるべくユミーは挨拶を返す。
「ガソマ様、ノウヴァ様、ご無沙汰しております」
「あ、ああ……ユミーも元気そうで何よりだ……」
「そ、そうね……ほほほ……」
「ついでに取り巻きの二ベス様も、」
「! 俺は取り巻きじゃ――ッ!」
ユミーにまで取り巻きと言われた二ベスは怒って声を荒げかけるが、ユミーの前にロミュドが出てきたので口を閉じた。王族の前で普段の態度は不味いからだ。
「君がニベス・フェムジンム伯爵令息か。ユミーの幼馴染だと聞いていた。会えて嬉しいよ」
「え、あ、はい! お、私も、光栄にございます!」
「ガソマ・ドパント公爵令息とノウヴァ・ゾディアーリ侯爵令嬢は久しぶりだな。我ら貴族は多忙ゆえに会う機会は少ない。巡り会えることを大切にしていきたいものだな」
実のところ、そんなこと思ってもいないが。
「は、はい!」
「滅相もございません!」
「光栄です!」
相当に取り乱しているガソマ達はもはや挨拶すら上手くできていない。かろうじて礼を口にしているだけだった。
(この人達のこんな姿が見られるなんて……思ってたよりも滑稽ね)
そんな混乱状態だと分かる有り様は、周りから見て滑稽で面白く見える。ユミーですら笑いそうになるくらいだ。
「おやおや、ロミュド第三王子殿下とガソマ様達が相対しておりますぞ……これは滑稽でございますな。くくく」
「まあまあ、本当に……クスクス」
何人かの貴族達もこの状況に気づいて笑っている。勿論、笑われているのはガソマ達なのだが、王族を目の前にしている緊張感でそれどころではない。
だが、バグタスは更に彼らを追い詰めようとしていた。
「そう言えば、ガソマ様。私の妹のユミーに用があって話しかけてきたのではないですか?」
「ば、バグタス殿!? な、なんのことかな? 僕はただ、挨拶しただけで……」
「それはおかしいでしょう? ユミーとは貴方の有責で婚約破棄したばかりなのに、貴方は笑顔で声をかけてきたではないですか。よほどの目的がなければそんなことはしないでしょう」
「そ、それは……!」
「……まさか、ユミーとよりを戻すつもりだとでも?」
「……っ!」
ガソマは言葉に詰まる。バグタスの目的を言い当てられて何を言えばいいのか迷ったのだ。第二夫人にユミーを求めているなどと彼女の兄バグタスの前で口にしていいものか分からない……というよりも、怒られる気がする。今のバグタスの声はドスが入ってるし、顔が怖くて目線が冷たく感じる。
ここはとぼけてしまおうと思ったが、ここでロミュドが会話に入ってきた。
「む? どういうことだ、ガソマ殿。ユミーとの婚約は破棄されたばかりだと伺っていたが、今更彼女とよりを戻したいだと?」
「あ、いえ……それはですね、ええと……」
「それは、なんなのだ? その話が本当なら私も無関係ではないのだが?」
「え?」
「「……?」」
ガソマの思惑を察したロミュドは険しい顔で詰め寄る。ガソマはなんだか嫌な予感がして後ずさりたくなってきたが立場がそれを許さない。ノウヴァと二ベスもロミュドの態度から同じく察した。




