第8話
ガソマとノウヴァは目を丸くして驚いた。それと同時に激しい悔しさと怒りが湧いた。二人の悪評が社交界に広まってしまっていたために表に出れなくて屋敷にこもっていたのに、その間にユミーが婚約して人生の新たな一歩を踏み出そうとしていることが許せなかった。たとえ彼らの自業自得であってもだ。
「ゆ、許さん! 僕達が屋敷にこもっている間にユミーなんかが!」
「本当にありえないわ! 一ヶ月もしない間に、なんてはしたない女なの!」
「確かに早すぎる気もするな……」
キャンキャン騒ぐガソマとノウヴァを眺めながら、二ベスはユミーが焦っているのではないかと思う。一週間で新たな婚約ができるなんておかしい、婚約相手は適当に見繕っているなら大した男ではないと考えていた。
(今は強気な感じだが、元は気弱な方だ。こっちが強気に迫ればあるいは……)
だからこそ、上手く迫れば奪えるのではないかと思いはじめた。
「なあ、ガソマ。ユミーの新しい婚約者なんて大した男じゃないかもしれないぞ」
「当たり前だ! 僕より立場の上の男と婚約なんてできるもんか!」
「そうよ! あんな地味な女なんか!」
「それなら奪えるかもしれないぞ?」
「「え?」」
「立場の上のあんたが上手いこと言えばユミーと寄りを戻せるんじゃないか?」
「「ッ!」」
二ベスの言葉をガソマとノウヴァは都合のいいように解釈した。二ベスの思惑とは少し違うが、ユミーを再びいいなりにできると思ったのだ。
「ははははは! そうだその通りじゃないか! 公爵令息であるこの僕が下手に出て言い寄ればユミーも頭を下げてよりを戻すに違いない! グッドアイデアだ!」
「え~、あんな女とよりを戻すの?」
「ユミーは事務仕事とかが上手かったはずだ。彼女を第二夫人という形で招いてやればきっと喜んでくれるはずだ。どうせ僕のことが忘れられないだろうしな」
「まぁ……それもそうね……」
「……」
ユミーがガソマに未練を残しているなど、二ベスは到底思えない。ノウヴァでさえも微妙にありえないと思っていた。だが、ガソマが公爵令息であることは事実であり、ユミーが気弱な伯爵令嬢だったのも事実だ。立場の損得を考えればありえなくないかもしれないが……。
ただ、正直な思惑をガソマの前で口に出すことはなかった。
「ガソマ、ユミーは三日後に行われるパーティーに出席するらしい。ドパント公爵にもパーティーの招待状が届いているなら公爵の息子であるあんたとノウヴァ嬢の二人で出席したらどうだ? そこでユミーを、」
「ユミーを第二夫人にするために告白すればいいってわけか! なんていい作戦なんだ! すぐに準備しよう!」
ガソマは三日後のパーティーに出席する決意を固めて準備に取り掛かる……前に眼の前の事務仕事に集中しだした。調子の良い時だけは仕事が捗るようだ。そんな姿に二ベスもノウヴァも呆れるのだった。
◇
「はぁ~……」
ドパント公爵家の屋敷から出ると、二ベスはため息を吐いた。
「いくらユミーでもガソマとよりを戻すわけないよな……」
ユミーの方から婚約破棄したうえに、現在のガソマは迂闊に外に出られない。そのうえで三日後のパーティーでガソマがユミーを第二夫人に招くなど成功するはずがないと二ベスは思う。何しろ、そのパーティーでユミーの新しい婚約者が発表されるらしいのだ。
「……まぁ、ガソマの作戦が駄目になるなら俺がこっそりユミーと……上手くいきそうならの話だけどな……」
二ベスはガソマの失敗を望んだ。それというのも今の二ベスも婚約破棄された立場というままなので彼も新たな婚約を必要としていたのだ。だからこそ、気弱な令嬢――ユミーに目をつけたわけだ。内心ではガソマの失敗を望んでいる。
しかし、この時の二ベスは何も知らなかった。ユミーの婚約者のこともそうだが、三日後のパーティーが罠であったことに。




