第5話
ユミーとバグタスが王宮からグレード伯爵家の屋敷に戻る頃、屋敷の門の前に見覚えのある馬車が止まっているのに気づいた。
「あら? あれはフェムジンム伯爵家の馬車ですわ」
「ということは、あいつか?」
ユミーとバグタスは嫌そうな顔になった。二人の脳裏にはとある男の姿が浮かんだのだ。ユミーの元婚約者の友人であり、ユミーの幼馴染の嫌な男の姿が。
「おーい、ユミー! ちょうどよかったー!」
馬車から一人の男が出てきた。灰色の髪に緑の瞳に頭の悪そうな顔の男、ユミーの幼馴染のニベス・フェムジンム伯爵令息だった。
「「はぁ~……」」
ユミーとバグタスは揃ってため息を吐く。ニベスはユミーの幼馴染だが、性格が悪くてユミーに意地悪だった。しかもガソマと同じパワハラするタイプの男。それに、この男はもっと前から婚約を破棄されていたためユミーとバグタスとは疎遠になっていた。
「あの男がこっちにきたってことは、目当ては……」
「そういうことだろ……俺が追い返してやるよ」
ユミーとバグタスは嫌そうな顔でニベスと対面するが、ニベスの方は一切気にしなかった。むしろヘラヘラ笑うしまつだ。
「おいおい、二人して愛しの幼馴染に向かってシラケた顔すんなよ~。せっかく俺がユミーのために来てやったのによ~」
「帰れ」
「帰ってください」
「帰らないよ~」
ユミーとバグタスに帰れと言われたニベスだがそれでもヘラヘラとした態度は変えなかった。それどころかヤレヤレという仕草で煽るように口を開いた。
「あのねぇ、俺はユミーが婚約破棄されたって聞いたから幼馴染として寄り添ってやろうと思ってきたんだよ~? 邪険にしないでよ~」
「お前がユミーに寄り添うだと? 必要ない」
「そんなことされても迷惑です」
より嫌そうな顔で拒否するユミーとバグタスだったが、ニベスは一切構うことなく近寄ってくる。
「なんだよー、愛すべき幼馴染につれないじゃないか?」
「お前とは残念ながら幼馴染だが気安い関係ではないだろ」
「ましてや愛もありません。そんな品のない態度だから婚約破棄されるのでは?」
「……ッ!」
二ベスの顔が引きつる。この男はユミーとガソマの婚約破棄騒動が起きる前に、不仲だった婚約者に婚約破棄された男なのだ。
「そ、それは互いに価値観が合わなかったっていうか……だから、互いに婚約を破棄された者同士で寄り添って励まし合おうと、」
「私の場合は貴方と逆です。冤罪で婚約破棄しようとした相手を言い負かして婚約破棄返ししたのです。ああ、あの男は貴方の友人でもありましたね。ガソマ・ドパント公爵令息とは」
「ちょ、それは……」
二ベスとガソマは親しい友人同士だった。つまり、類は友を呼ぶとでも言うように婚約破棄された者同士とは二ベスとガソマのことを言うのだ。
「……ガソマのことは同情するよ」
「でしょうね。婚約破棄されたガソマ様を同情するのは貴方だけでしょう」
「ち、違う! ユミー、お前を同情するって言ってるんだよ!」
「二ベス様、貴方が私に偉そうに言える立場ですか? ガソマ様とほとんど同類の貴方が」
「な、なんだよ。俺は本当にユミーを心配してやってるんだよ」
「貴方は私じゃなくて自分の心配をしているから私にすり寄ってきたんじゃないですか? 婚約者がいないことに危機感を募らせて?」
「そ、そんな、言い方……!」
二ベスは絶句した。ユミーが強気な態度で自分に反論するとは思っていなかったのだ。予想とは違った展開に二ベスは焦り苛立った。
「そんなこと言ったらユミーだって婚約者がいないじゃないか! だから、いない者同士で」
「いない者同士だからなんですか? まさか、下世話なことを企んでいるのですか?」
「下世話なことって言い方は何だよ! 俺は、俺がユミーと、」
「お前がユミーと婚約できるとでも思っていたのか? そんな選択肢があるわけ無いだろ! 既にユミーには新たな婚約が決まっているんだからな!」
「な、なんだって!?」
二ベスは声を荒げて迫ろうとしたが、目論見を見透かされた挙げ句に、ユミーに新たな婚約者がいると言われてしまう。




