第4話
「お待ちしておりました。バグタス・グレード様、ユミー・グレード様」
王宮に入ったユミーとバグタスを出迎えたのは、ロミュド第三王子の執事と多くの使用人たちだった。どうやら歓迎ムードのようだ。
「ロミュド殿下は客室で待っておられますので、私がご案内いたします」
執事に案内される二人は、王子が待っている客室まで来た。そして、バグタスが客室の扉をノックし挨拶を済ませた後、ユミーが中に入る。そこには――紛れもなく第三王子ロミュド・アナザライダがいた。
「久しぶりだなユミー嬢。ロミュド・アナザライダだ。本日は私の為にご足労掛けて済まなかった。来てくれたこと嬉しく思う」
銀髪碧眼で優しそうな顔、明るくほがらかで生き生きしている性格。それがロミュドに対するユミーの印象だった。彼と久しぶりに会ったことと、最悪だったガソマと婚約破棄したこともあったせいか、ユミーはロミュドの一声に引き込まれた気分になった。
更に、ロミュドが兄バグタスが似たような雰囲気を持っていることに気づいた。
(ああ、お兄様に似た感じがするから魅力的に感じるんだ。そういう殿方に弱いのかも)
自分の男の好みを自覚した瞬間でもあった。
◇
ユミーとロミュドは顔を見て話しやすいように対面のソファーに座った。兄バグタスは見守るようにユミーの後ろに立っている。
「バグタス、君の妹と話をする時間をもらってすまない。感謝するよ」
「もったいないお言葉ですロミュド殿下。私の妹と会話したいとお望みならば、私はそれを実現するのに尽くすだけです」
「ははは、嬉しい言葉だな」
兄とロミュドの会話を聞く限り、本当に第三王子であるロミュドの方からユミーとの会話を望んでいたとユミーは感じた。実のところユミーは兄が仕掛け人であり王子に無理を言って頼んだのかもと思っていたのだ。だからこそ、今になって緊張感が大きくなった。
「いきなり呼び出してすまなかったユミー嬢」
「いえ、いつも兄がお世話になっているロミュド殿下の呼び出しとなれば喜んで向かいます」
「最後に会った時よりも芯の強そうな印象を感じるよ」
「お褒めにいただき光栄です」
ロミュドは本心から褒めるつもりで芯の強そうなと口にしたが、つまり以前はそんなふうに見えなかったということを意味する。ただ、それに関してはユミーも当然だと思う。ガソマの不誠実な態度に怒ったから今の自分があると彼女自身も思っているのだから。
「君の兄バグタスから聞いているだろうと思うが、私が君との対話を望んだ理由はもう分かるね」
「はい。殿下が私のことを気に入ったということを兄から聞いておりますが、まだ信じられない気持ちです……」
「ははは、いきなり気に入ったなんて言われれば当然か。もしかして困る?」
「そんな、困るなんてことはありません」
ちょっと戸惑うがユミーに困ることはないのは本心だ。むしろロミュドと話していくうちに緊張感が和らいでいく気さえしている。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ユミー嬢に不快な思いをさせてしまっては元も子もないしね」
「その……ロミュド殿下が私のことを気に入っていただけるのは、とても光栄なことですが……そのきっかけはもしかして……」
ユミーとロミュドの面識はそこまで多くはない。兄バグタスが仕える主ということだけだ。それにもかかわらずユミーのことを気に掛ける理由といえば、あの断罪劇しかない。
「ああ、あの断罪劇なら私も知ってるよ。私もあの場にいたしね」
「えっ、そうなのですか!?」
「? ああ、あの時は急な予定変更でパーティーにいたんだ。私が入ったその直後に断罪劇が起こったから君が気が付かないのも無理ないか」
ユミーは顔を赤らめる。あの断罪劇を直に見られたとは思っていなかったし、見た人から直接感想を言われるとなんだか恥ずかしかった。ましてや、それが王族だなんて。
「見事だったと思うよ。ドパント公爵令息の悪意をはねのける様は素晴らしい。以前から君のことはいいと思っていたが、あんなに勇敢な姿もあったんだね」
「以前から……というのは?」
「ユミー嬢はパーティーなどの催し物で、使用人たちに対する態度も指示も適切で素晴らしいと思っていたんだ。そんな姿を見ているうちに君のような女性が好みになっていたんだよ」
「わ、私のような……!?」
確かにユミーは執事やメイドといった使用人達には敬意を払ってきた。使用人の人たちが支えてくれるからこそ貴族が上に立てるのだと思って行動していたのだが、王族の目に止まっていたと知って驚いた。更に好みの女性だとまで言われるとは。
「私は、自分たちよりも身分の下の使用人――裏方の者たちにこそ、敬うべきだと考えていた。私達貴族の晴れやかな社会は彼らのような裏方が頑張ってくれるから成り立っているのだからな」
「はい。私も彼ら使用人たちのお陰で婚約破棄できたと思っています。日頃から敬意を払うのは当然です」
「やはり、思った通りの女性だ」
ユミーの胸に温かいものが広がるのを感じる。それは眼の前の王族であるロミュドが自分と同じように使用人をおろそかにせずに敬うべきだと考える人だと知って嬉しいからだ。使用人に常日頃から敬意を払う貴族が少ない社会であるゆえに、ユミーとロミュドのような考え方を口にできるものは滅多にいないのだから。
「私が君を呼び出した理由……バグタスから聞いているかい?」
「殿下が……私に求婚と、聞いていますが……」
ユミーは赤面しながらロミュドを見つめると、ロミュドは笑顔ではっきり言った。
「私と婚約してほしい」
「! わ、私なんかを……?」
「ああ、君がいい」
ロミュドの顔も赤面していく。そのまま二人は無言のまま見つめ合う。バグタスが様子を見に来るまではその静寂は続くのであった。




