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聖女シエルのような方もいるのです

「ねぇ。ガブリエル? ちょっと張り切りすぎじゃない? まぁ、危ないことをしていないみたいだからいいんだけど……」


「だって何かせずにはいられないんですもの」



 ごきげんよう。

 ガブリエルです。


 わたくしは、表向きにはまだ「婚約者」ですが、実際には「妻」になりました。

 そのことを思い出すと心がとても軽くなります。


 浮かれているとも言います。


 でも、そのくらいいいでしょう?

 新婚ですのよ?


 元々、わたくし、殿下の文書系の公務を手伝って実質的な妻としての地固めは行っていましたが、今はもう妻ですもの、もうちょっと踏み込んでみています。


 例えば、リーズ宮殿で殿下に粉をかける令嬢を牽制したり、ね。

 リーズでは、二股や浮気はタブーのはずですが、殿下が既婚者となったことをまだ誰も知りません。


 まだ独身だし、チャンスはあるかも? なんてことを考える令嬢もゼロではないのです。


 わたくし個人的には、浮気で手に入れた殿方は、別の人に浮気することに躊躇が無くなっている可能性もあるわけで、そんな方でよいのかしらと、はなはだ疑問ですのよ?


 それに、殿下はわたくしが令嬢を牽制したとの話を聞いて、大喜びだったと聞きましたわ。


 そうやって他人の恋の燃料になっているだけなのもむなしいでしょう?


 早く諦めて下さらないかしらね?



 それからわたくし、魔術の鍛錬にも身が入って、第6位階の神官試験にも合格いたしました。

 殿下は第9位階、つまり最上位階に合格しました。


 流石ですわね?


 殿下に伴われて先代聖女が収監されている聖女牢を見学させていただきました。

 高位神官に必要と認められれば見学が可能だそうです。


 と言っても聖女に近づくわけではありません。

 第8位階の試験に出てくる「魔力透視」や「物理透視」を憑依してもらって、壁越しに見学するのです。


 先代聖女は、すこしぼんやりなさっていました。

 もう長いこと誰も話しかけていないらしく、そのせいかもしれません。


 聖女の瘴気はぐちゃぐちゃのモヤモヤで、酷い状態でした。

 ぼんやりした見た目からは想像できない量の瘴気が発生していました。


 わたくしは、先代聖女の瘴気を見て、少し怖くなりました。


 当代聖女シエルは良い方に見えましたが、瘴気の状態はどうでしょうか?

 聖女受け入れの際にお世話になったベテラン神官の方に話を伺ったところ、先代聖女は一般的な魔族が出す瘴気よりも清廉だとおっしゃっていました。


 どうしてこのような差が出来たのでしょうか?


 わたくしはどうしても当代聖女の意見が欲しくなって、殿下に相談したら、しかるべきところに相談くださって、皇王聖下からの承認を取ってくださいました。


 わたくしと殿下が聖女シエルを連れて再び先代聖女マリーナを訪問した時、聖女マリーナは何やら喚き散らしておられました。


 正気を疑うレベルです。


 わたくしたち3人は、聖女のお世話係から先代聖女が聖女牢に入れられた経緯、それから聖女に更生してもらうために施そうとした教育内容や、諦めざるを得なかった過程などを伺いました。


 そして最後に再び瘴気の状態を確認しようとしたのですが、聖女マリーナは興奮状態だったためか、部屋全体が瘴気に覆われて魔力透視では聖女が部屋のどこにいるのか分からないほどでした。


 お世話係の方が聖女マリーナの瘴気の生成速度が分かりやすいように一旦すべての瘴気を祓ってくれました。

 聖女マリーナが喚き散らす度に瘴気がぶわりぶわりと生じている様子を目の当たりにして、わたくしは思わずつぶやいてしまいました。


「神はどうしてこのようなものをこの世界に送り込むのでしょうか?」


「神はこのようなものをこの世界に送りこんでいることに気が付いていないのよ、きっと。元の世界に戻ったら問題提起してみるわね? ううん。この世界にいる間に何かできることがないか調べてみるわ」


 聖女シエルのこの答えには、わたくしだけではなく、殿下も、お世話係も、ベテラン神官も、一様に驚きました。


 聖女シエルはこの世界の人生が終わったら、元の世界に戻ることができるのですね?

 聖女シエルにとってこの世界は「出張先」みたいなもので、戻った後の世界に本当のシエルの人生があるのでしょうか?


 そして、この状況について神に相談することも出来るのですね?


 以前、聖女シエルが元の世界の話をするのは「規約違反」だと言っていた理由がわかる気がします。

 

 わたくしは既に聖女シエルにお願いして神に伝えて欲しいことがたくさん浮かんでしまいました。


 聖女シエルがちょっとだけ口を滑らせただけの権能でも、全ての魔族が聖女シエルに願望を伝えたくなるレベルに強力です。


 元の世界に戻った聖女が他にどんな権能をお持ちなのか分かりませんが、その内容はわたくしたちが知るべきではないのです。


 初代混沌が聖女を殺してはならないと言った理由も、少しだけ分かりました。

 もし、聖女を殺してしまえば、神が魔族の為したことに怒ってこの世界を滅ぼすことができそうだと。


 そして、歴代魔王が「紫色の瞳の呪い」を解く方法をどんなに頑張って探しても、それが神の御業なら決して呪いが解けることはないのではないでしょうか?

 

 絶望的、ですわね?


 上記は単なるわたくしの推測に過ぎませんが、このことを手記に残して次代の悪役令嬢に伝えるか、悩みますわね?


 知らない方が幸せなこともあるかもしれませんもの。


 わたくしがただ一つ、しっかり書いておかねばならないと思ったのは、聖女はシエルのような友好的な方もいらっしゃるということです。


 マリーナのような方ばかりではないというのは、少しは救いになるのではないでしょうか?


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