殿下に大きな愛の誓いを捧げました
「あぁ~。ガブリエル、また泣いちゃって。でも、これは嬉し泣きだと解釈していいよね?」
「うぇ~~ん。もぢろん、うれじなぎですわよ~」
ごきげんよう。
殿下がブライト国のわたくしたちの真の隠れ家に案内してくれたばかりか、緊急用に何よりもまず準備してくれたのがウェディングドレスだと知って、涙が止まりません。
「くくくっ。喜んでくれて嬉しいよ。今すぐ結婚する場合、ダジマットの義父上や義母上の意向に反することになってしまうかもしれないから気が乗らないけど、ガブリエルを失うよりマシだしね。どうしたい?」
「したい、したい、結婚したいです~」
お父様、お母様、ごめんなさい。ダジマットが断絶することになったとしても、殿下以外の方と結婚するのはイヤです。
お義父様、お義母様、ごめんなさい。リーズ国に紫の瞳の呪いを持ち込むのがダメなら、誰の目にも触れないように隠れて暮らします。しかし、クレメントを諦めきれませんでした。
身を引くことができなくて、ごめんなさい。
でも、ここまでしてもらって、断る選択ができませんでした。
「も~。せっかちで困った姫だね~。嬉しいけど。事情を知った上で血統書を結んでくれる神官が一人だけいるけど、その人でいい?」
「いい。誰でもいいです!」
「んじゃ。連絡するからちょっと待ってね?」
殿下はそういって、空中に魔方陣を書き始めました。
「これは高位神官の密書用の魔法陣だよ。本当は人に見せちゃだめなんだ。ガブリエルもそのうち習うと思うけど、とりあえず今は目をつぶっていて?」
そうですのね?
殿下は第7位階に合格した後、高位神官友達が出来たのですね?
ちょっと寂しいなんて、この期に及んでヤキモチを焼くわたくしって、相当ね。
でもわがままを言う気はありませんわ。
わたくしは頷いて、目を閉じます。
「送信は終わったよ? とりあえず返信を待つ間、応接室で話をしよう。君にどうしても承諾してもらわないといけないことが2つあるからね?」
殿下は再びわたくしをヒョイと抱えて、先程空気を入れ替えるために窓を開けた応接室に転移し、ソファーにわたくしを下ろし、跪きました。
まぁ!
「ガブリエル、命ある限りずっと大切にします。どうか私と結婚してください」
「はい。2回目の求婚ですわね? でも、はい。よろこんで!」
「うん。1回目は政略の意味もあったでしょ? だからちゃんと愛だけの求婚もしたかったんだ」
「うぅぅ~。殿下ぁ~。何度泣かせれば気が済むのですか~~」
もう。明日は目が腫れてぶちゃいくになってますわね?
何なら今もきっと、ぶちゃいくになっているでしょうけれどね?
「そして、もう一つ、とっても大事な話。リーズからブライトへの転移は妊婦には掛けられない。だから、ガブリエルが私との子供が欲しいと思ってくれるのは本当に嬉しいのだけど、まだダメなんだ」
なるほど。
確かに、妊娠中は転移魔法を使うのを避ける傾向にありますわね?
妊娠中の転移がお子に影響するという科学的根拠は得られていませんが、体調を崩すケースが多いのです。
お子が転移を理解していない中で魔力に晒されるからビックリしてしまうためだと推測されています。
わたくしは、こくりと頷きました。
「そして、リーズからブライトへ陸路で移動すると敵の目に触れる可能性があるから、こちらもダメだ」
「わかります」
「だから、敵前逃亡の準備が全て整って、ここに転移で戻ってくるまで待って欲しいんだ」
殿下が堅物すぎるだけじゃなくて、そういう理由もあったのですね?
「はい。全然待ちます。わたくしにお手伝いできることはありませんか?」
わたくしもできる限り協力したいのです。
「うーん。2人でコソコソやってると目立つから、できるだけ普段通りに、堂々とできることを沢山やるとか? 国内の視察公務を積極的に行ってくれると敵の目先が逸れやすいかな?」
「国内の視察公務ですね。分かりました! 殿下と一緒じゃなくて、単独公務でもよろしいですか?」
「うん。不自然じゃない程度に積極的に、だよ? 闇雲に外に出て、セキュリティーが甘くなって、逃げる前に事故が起きたりすると本末転倒だからね?」
そうですわね?
護衛をしてくださる近衛の方々にもご迷惑が掛かりますしね?
近衛といえば、次期近衛隊長の妹君テレーサ様と恋人のフィリップ卿のことも気に掛かりますわね?
お兄様を催促してみようかしら?
慌てている感が出て不自然かしら?
「お。返信が着たよ。今からでも大丈夫だって。ドレスの着付けは神殿についてからやってくれるって。じゃぁ、行こうか?」
わたくしたちは、慌ただしく神殿へ転移しました。
ドレスを抱きしめて。
ついた先で待っていたのは、なんと先代悪役令嬢のラファエラ様と何やらやたら立派な男性の神官でした。
そ、そういえば、ラファエラ様は神聖国の神の家で7年修行したプロパーな高位神官でしたわ。
しかも、お二方とも黒ローブ。
皇王家のメンバーじゃなくても、黒ローブって貰えるんですか?
素敵ですわ!!
「ふふふ。驚いたでしょ? わたくしも最初にクレメント殿下からお手紙を貰ったときには驚いたわ」
「はい。ラファエラ様に血統書を結んでいただけるなんて、望外の幸福です。ありがとうございます!」
「まぁ、そんなにかしこまらないで? それから、彼は夫のオーグスティンよ。悪役令嬢の試練の後、すっかり魔術オタクになって、最上位神官の資格まで取っちゃったの。今日の助手よ」
え?
この方がオーグスティン様?
ラファエラ様の手記では瘴気にまみれて汚らしいと繰り返し書かれていたので、こんなにまともな、というと失礼ですわね、えっと、とにかく、すらっとした長身で、みればみるほどに威厳に満ちたご立派な方で、意外でした。
この方が王でよかったのでは? と、思ってしまいましたわ。
「よ、よろしくお願いいたします」
わたくしは膝を折って、王族同士が行う最上の礼でご挨拶申し上げました。
「あ~。いや、どうか、本当にそんなにかしこまらないでください。私は単なる助手ですから」
そんなこんなで、ラファエラ様と侍女の方々にドレスの着付けやメイクを施してもらって突貫ながらも花嫁姿でラファエラ様とオーグスティン様に血統書を結んでいただきました。
指輪の交換も、親族の立ち合いもない、極々質素な結婚式でした。
でも、実はわたくし、この誓いの言葉と花嫁へのキスだけの質素な結婚式でよかったと心から嬉しく思いました。
以前、殿下から結婚するのがイヤなの? と、詰められたことがありましたわね。
あの時は、途方もなく豪華なウェディングドレスと盛大な結婚式になりそうで現実逃避したくなったのかもしれません。
もともと、こういう小さな結婚式で大きな愛の誓いを捧げたかったのだと思いますわ。
でも、そういうと殿下がガッカリしてしまいそうなので、内緒にしておこうと思います。
ふふふ。
いずれにせよ、わたくしが幸せいっぱいだったのは伝わったと思いますわ。




