神代具の神秘
アマナス城。
あの『古城に眠る首無し騎士』に書かれた邪悪な魔術師の城は、現実になっても変わらずおどろおどろしい。
時代が時代であれば、騎士国家アルビオンにおける、ある種聖地になっていただろう。
その城門前で俺達は輪になって話し込んでいた。
「『首無し』の特徴はこうだ。古城からは出てこない。硬い、速い、強い。以上」
俺は自分がなんとか調べた情報を一つ披露するが、二人からはブーイングが出た。
「それ偉そうに言えるものじゃないですよ?」
「オリヴァーのアホ」
反論する。
「んなこと言ってもよ。討伐に行って帰ってきた奴は、一人も居ないんだからしょうがねえだろ。死人しか出てないのにどうやって調べたかは知らねえけど。組合で調べた結果がこれだけ。俺は悪くねえ」
「なら、仕方……ないんですかね? 分からないものは分からないですから」
カレンが同意する。
少なくとも、“帰ってきた奴がただの一人もいない”ということだけでもやばいっていう情報にはなるだろ。
だが、ナターシャは違ったらしい。
何枚かの紙を取りだし、何かを説明しようと俺達に見せる。
「うわっ! コピー紙ですかこれ!」
それをカレンが渡されたら、なんだかよく分からない言葉を喋って驚き出した。
「コピー紙? 何を言ってるんだ。これは紙、コピー紙とやらじゃない」
「コピー紙は紙の一種ですよ!」
不思議がるナターシャにカレンがワーワーと騒ぎ立てて、俺は気づく。
「なるほど。紙といえば、俺達にとってはこれだったが異世界には別の紙があるのか?」
「はい! 組合での依頼はほとんどオリヴァーさんが受けるか口頭でばかりだったし、本も読めないから理解してませんでしたが、これはコピー紙っていう印刷に優れた紙ですよ!」
説明を聞いてる間にもカレンは渡された紙を弄り回し。
「凄い。これインクだ、こっちには印刷の技術まであるんですか!? どうやってやってるんです!?」
「どうやってって、そりゃ神代具だけど」
騒ぐカレンに俺は当たり前のことを当たり前のように言ってやった。
「コピー紙と呼んでる、それも神代具が生み出したやつだな。バカでかい神代具が常に吐き出してるんだよ。何台かあっから、それを各地で使ってるってとこかな」
「工場! それはもう工場! 神代具っていえばなんでもいいと思ってませんか!?」
「耳元で大声出さなくたって聞こえるっての」
鬱陶しいから、耳を抑えるが、彼女は止まらない。
「最近、おかしいなぁと思ってたんですよ! なんかお店に冷蔵庫はあるし! どことなく懐かしい風景がするなぁ、と思ってたりして! そりゃそうですよ、あるんですもん! 電子機器!」
「頼むから共用語で喋ってくれないか?」
無視された。
「まさかとは思いますけど、映像を映す機械が各家庭に置かれている、なんてことありますか?」
彼女が恐る恐る聞いてくる。
俺はその質問に首を横に振って答える。
「ないなぁ、それは。流石に珍しい品になってくると、重要な施設にしか置かれないんだよ。記録と再生の神代具は一応、バルカンの首都にはあるって聞いたことあるが」
「……うぇ、私なんでこの世界に召喚されたのか分かんない。いらないじゃん、そんなに発達してる世界なら『魔王』に勝てなくても平気なんじゃないの?」
どんよりとした気配を出しながら、存在意義を探すカレンが尋ねてくる。
それに今度は、ナターシャが答えた。
「非戦闘用の神代具が当たり前のように、国内に置かれてるのはバルカンぐらいだろう。私も昔、他の国を次々と飛び回っていたが、見たことはない。だから、オリヴァーのいたアルビオンなんかは紙も羊皮紙とか使っているし、高価じゃなかったか?」
「あっ、そうだったわ。俺あっちにいた頃から神代具かぶれとか言われて、普通にこの紙使ってたから忘れてただけだ」
その答えでカレンは納得したのだろうか?
俺には分からないまま、次の疑問をぶつけてきた。
「そんなにあるってことは、バルカンってもしかして神代具作れるんですか? あれ? でも再現は不可能だって」
「そうだ。再現は不可能、だが修復ができないってわけじゃない」
俺がこの国に逃げてきた時のことが思い浮かぶ。
「実は、バルカンの街一つ一つには、魔物避けの結界を貼る神代具があるんだよ」
「ああ、あの話か。噂で聞いた時は、私より一個下のそれもまだ成人にも満たない奴がしでかした話だったから、眉唾物かと疑ったものだ。確かにそれなら、分かりやすい」
カレンに説明する前に知った顔をするナターシャに、俺はその頃から、魔物討伐で名を挙げてるお前のことの方が信じられねえよ、とは思ったが口に出さない。
「あれ、数年前に壊れたんだよね」
「ええっ!? 神代具って壊れるんですか!?」
「勿論。道具だからなぁ、あれだって。そもそも何千年も昔のやつが動いてるってことの方がすげえよ」
『金重』や『空蝉』に思わず手が伸びる。
こいつらも最近面倒な戦いが続いて、働き続けてる。
どっかで休ませないとな。
「話を戻すな? 壊れちまったもんだから、バルカンのどこもかしこも大騒ぎよ。特に今まで魔物避けばかりに頼っていて、ろくに武装の準備もしてなかった街はやばかったって話だ」
「でも、この話しをたってことは直ったんですよね? どうやって?」
カレンの質問に己の親指を自分に向けた。
「俺だよ。アルビオンでも似たようなものがあってよ。それ、あの国だとガラクタ同然に置かれてて好き放題触れたんだ」
当時の感覚を思い出しながら、語る。
「で、なんか弄ってたらぶっ壊れてたそれ治ってさ。親父に褒めてもらえねーかなーって持ってったら凄く罵倒されて、ブチ切れた俺は思わず家を飛び出してた。まあ、もうその頃には、次期騎士団長の権利も無かったし、数日後には血縁関係も解消されてたみたいだから別にいいんだけど」
ギョッとするカレンをよそに続ける。
「上手いこと、行商人のおっさんに出会えたのは幸運だったなぁ。そこで魔物避けの話を聞いて、立ち寄ったあとチャチャッと直したんだ。それもあって、俺はバルカンではかなり自由に振舞っても許されてる」
一通り身の上話と共に、神代具は直せるんだぜと伝えてやった。
すると、またナターシャが笑い出す。
「でもお前そんな、ふふふ。救国の英雄みたいなのに! 道路工事って!」
「またその話かよ」
あのあと、とんでもなく怒られたんだよ。
貴方何してもいいと思ってませんか!?って偉い人に。
ツボに入ってしまい、笑い転げるナターシャに呆れながら呟く。
「こんなんで、大丈夫かよ……」
「ですねぇ。結局『首無し』のこと分かってませんし」
話を脱線させたカレンが、妙に上手くなった非の棚上げをしながら、同意してくる。
誰に似たんだよ、全く。
先が不安になるぜ。
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