“撲殺魔導師”ナターシャ・メジェス
「いいか、今回は偵察だけ。本気では戦わない。装備の消耗も最低限に止める」
ナターシャの復活を待ったあと、三人で意識のすり合わせをしたというのに、城門に手をかけてから、再び同じ話を繰り返される。
「分かったか、偵察だぞ。行けそうだ、などと調子に乗り、追撃するなよ。相手は何をしてくるか分からないんだ。最後の最後にとんでもない行動を繰り出してくるかもしれん」
「そこまで言われなくても、分かってるって」
あまりにくどかったので、口を出してしまう。
ナターシャの端正な顔が歪む。
「私はお前が一番心配なんだよ、オリヴァー。お前は突然訳分からないことをしでかす。絶対にそうだ。今回だって、何かすると確信している」
「……なら、別に注意喚起いらなくね? 身に覚えはねえけど、なんかするのは確定事項なんだろ? 言っても言わなくても変わらねえじゃねえか」
「オリヴァー! お前はいつもいつもそうやって! はじめて出会ったあの時だって――」
「えーっと、それ長くなりますか? そろそろ行きましょうよ。痴話喧嘩なら終わったあとにしましょう?」
カレンが激昂するナターシャを宥めに入る。
「痴話喧嘩ではない……」
「じゃあ、やめましょうって。これから戦うんです。もっと、ひりつくような緊張感が無いと」
こいつはこいつで戦闘狂の気があるんだよな。
なんだよひりつくような緊張感って、怖いわ。
「……すまん、オリヴァー。お前だけじゃなかったな」
このタイミングでの謝罪は要らねえだろ……。
気を取り直し、俺はナターシャから進行を奪い取って、段取りを確認する。
「前衛はナターシャ。中衛に俺。後衛にカレン。カレンは、ピンチになることを想定し、撤退の用意を常にしておくこと。最近、弓術も鍛えたんだろ? しっかり頼むぜ」
「はい! ミッションの報酬で技を色々覚えてきました! お役に立ちますよー!」
神ッションで技を覚えた彼女は、そこらの達人より扱いが上手くなっていることもある。
本格的に彼女の成長する方向性を定めてやらないとな。
今度、しっかりと話を聞こう。
「よし、じゃあ行くか。『首無し』退治」
「ああ」
「はい!」
俺の号令で各々返事をし、ナターシャが城門を力強く押す。
そこから見えるボロボロの大広間に、それは居た。
装飾が一切ない無骨な鎧から禍々しい気を立ち登らせ。
身の丈以上もある巨大な剣が地面に突き刺さっており。
そして、首のない胴体から覗く無限の闇、ではなく。
「おいおい、どうなってんだ。首が、あるじゃねえか」
頭には何故か、同じような形状の兜が乗っている。
城に足を踏み入れ、唖然とする俺たちに反応したのか。
それは立ち上がった。
見た目通りの鈍重な動きで、剣を掴み構えると。
轟音。
同時に、離れていた『首無し』は目の前に。
「散開しろ!」
ナターシャが叫び、何故か首のある『首無し』の振るう剣に向かって、拳を勢いよく突き出す。
剣と拳が何度も、打ち合う。
傍から見たら異常なぶつかり合いは、なんと拮抗していた。
衝撃波が辺りの瓦礫を吹き飛ばす。
俺はそれに巻き込まれないように距離を取る。
自分のことで精一杯だった。
位置を移動してから、カレンを探す。
彼女は遠く離れた場所で既に弓を構えていた。
「クソッ、俺だけかよ」
出遅れた悪態を付きながら、剣と拳を何度もぶつけ合い、衝撃波を巻き起こし続ける『首無し』とナターシャに。
いや。
『首無し』と“撲殺魔導師”ナターシャ・メジェスに、『空蝉』を向け。
「いつ見ても、あいつの戦い方はおかしいだろ」
その非常識さに、戸惑いながら引鉄を引く。
ナターシャは元から筋力に優れた戦士、などではない。
その逆、本来は非力であるはずの魔導師としての才能に恵まれ、実際にそうなった。
なのに、何故“撲殺魔導師”なんて名前が付いてるのは、魔導師を魔導師たらしめんとする、一つの要素。
魔術属性と呼ばれるものが原因だ。
彼女が持つのは、“物理”の魔術属性。
行動を拡大させる。
身体を硬化させる。
力を一つの場所に固定する。
そういった、異常な魔術の中でもさらに異常な“物理”の属性を手にした彼女はこう思ったらしい。
なら、身体を鍛えれば強くなれるんじゃないか、と。
馬鹿だ。
馬鹿の極み。
人のことをアホとか言えない大馬鹿野郎だ。
だが、その馬鹿が今、『首無し』の巨大な剣を一歩も怯むことなく打ち返している。
俺やカレンのちまちました攻撃は、ほとんど傷一つ付けられていないのに、ナターシャは互角なのだ。
これが、金級冒険者。
彼女が叫びながら、『首無し』の持つ剣を叩き落とす。
「もっと、もっと! お前の剣は軽いんだよォ!」
最初に『首無し』へ、一撃を食らわせたのは嵐そのものと例えるべきナターシャの拳だった。
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