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アマナス城

 二週間の大穴修繕という時間は、『首無し』との戦いに向ける準備としては可もなく不可もなく、といった具合であった。


 俺の不在の間に一人でいくつかの依頼を達成し、気づけば速攻で同じ銀級冒険者へと上がってきたカレンが、魔物へと以前より鋭く剣を振っているのを眺め、そう感じた。



「俺も負けてはいられないな」


 対峙している狼型の魔物が吠える。


「悪いが、全力で行くぜ」


 先日の戦いで学んだ。

 例え、相手が弱者でも最速で全力を叩き込み、確実に始末することを。


 大口を開けて、突っ込んでくる魔物。

 それをすれ違うように避け、胴体にナイフを突き刺す。


 背後で爆発音が聞こえ、肉が焼ける匂いがする。

 それを確認してから振り返り、狼の無防備な頭に『空蝉』の弾を何発も撃ち込んでやる。


「これだけやれば死んだだろう。次……」


 と、他の魔物を相手にしようとしたら。

 既に、全て事切れていた。


「終わっちまってるか。流石、金級冒険者」


 俺はもう一人いる同行者に、口笛を吹く。


「お前に褒められると、寒気がする……」


 拳についた血を拭っているナターシャが、褒められた身分のくせに、いつも通りの嫌そうな顔をしている。

 俺は肩を竦める。



『首無し』は、指定金級討伐対象という特殊な魔物だ。

 それは極めて危険度が高く、金級冒険者しか依頼を受けてはならないということは、勿論。

 その生息地に立ち入ってはならない、などのような様々な禁止事項が設けられているものだった。


 だから俺達が『首無し』を討伐するために、必要だったのが彼女。

 金級冒険者ナターシャの同行だった。


 俺達は現在彼女の補佐役といった形で、街から少し離れたテネブリス湖の横に、『首無し』が出現したと同時に、一夜にして生えてきた物語の挿絵そっくりな古城に向かっている。

 城の名を語るなら、原作から取ってアマナス城と言うべきか。


 それはまあ、いい。

 本題に戻ろう。


 あくまで倒すのはナターシャだ。

 付き添いの俺とカレンに戦闘の権利は当たり前に存在しないが、別に監視がついてるわけでもない。

 組合の職員だって気付いているが、暗黙の了解って奴だ。


「それにしても、よくお休みできましたねナターシャさん。お店の人、まだ治ってないんですよね?」


 カレンがナターシャにそう言うと、ナターシャは笑いながら俺を指さした。


「ふふ、だって二週間も猶予があったんだぞ? どうせ客もそんなに来ないんだ。前もって周知すれば、休みぐらい取れる。なんせ! どこぞの誰かが道路工事をしてたからな! あはは!」

「うるせえな」


 鈍器で潰されて、肉片を辺りに撒き散らすという惨い殺され方をしている魔物達から、換金素材を目敏く集めながら、言葉を返す。


「必要なことだったんだよ」

「酔っ払って道を爆破した後始末が? それはまあ大変だったなぁ?」


 彼女達には襲撃のことは伝えていない。

 不安にさせる必要は無いだろう、というのもあるがあの甲四番のあと、ぱったりと誰もやってこなくなったからだ。


 恐らく奴は暗殺を仕向けてきた勇者候補が用意できる戦力では、相当なものだったのだろう。

 これ以上手駒を失うのを恐れたのか、なんなのかは知らないが平和なのはいいことだ。

 俺は考えないことにしていた。


「ナターシャさん、その辺にしといて上げましょうよー。オリヴァーさんは拗ねるとどうせめんどくさいんですから!」


 見かねたカレンが助け舟を出す振りをして、追い討ちをかける。


「うるせえなぁ……」


 圧倒的にこの件で立場が悪いのは俺である以上、こうやって反論もできず呻くしかない。


 こうして、古城に辿り着くまで、俺は道路工事をネタにされて茶化されるのを、道中に生息する魔物に元気よく襲いかかることで有耶無耶にしながら、進んでいくのだった。


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