煤闇の鎖
本日は2回行動です。
前話もお読みいただけると嬉しいです。
流石に今日はまともに眠れそうになかったので、適当に酒でも入れるかと『鮭の帰郷亭』以外の場所へ夜風に吹かれながら歩き出し、数分後。
妙な気配を感じた。
おそらく殺し屋、だろう。
カレンと行動を共にしてから、よく出会うようになったからもう驚きはしていない。
どれだけ、彼女を殺したいんだよ……と呆れはする。
ダラダラとついて歩かれたり、ナターシャの店の方に行かれたりすると困る以上、人通りが減ってきたあたりで姿の見えないそいつに、こっちから声をかけることにした。
「虫の居所悪いから早く出てきてくんないか? わざと気づくように殺気かなんだか知らねえけど、接触してくるのやめてくれ。気が、散る」
キレ気味に言うと、頭から外套を被り、黒頭巾で顔を覆った怪しげな人物が突然目の前に出現する。
「それはすまなかった。敬意が足りていなかったのは、ワタシの方。謝罪しよう」
酷くくぐもった男か女か分からない声を出した後、急に頭を下げてきた。
気性が削がれる。
「謝ってんじゃねえよ……はぁ、なんなんだよお前。狂ってんのか?」
「ワタシは、甲四番。狂ってはいない」
今度は自己紹介まで始めやがった。
あまりにもあんまりだった俺は、思わずツッコミを入れてしまう。
「狂ってんだろ。どうせ殺し合いすんだぞ? なのに、なんで自己紹介始めやがるし、謝ったりすんだよ。訳わかんねえぞ」
そう言うと、甲四番とやらは胸に手を当て。
「今から殺し合いをするから。死者には敬意を払うべき。つまり、死者に至る前の殺害対象にも敬意を持って接せよ。ワタシの自論」
ふざけた理論を力説してきた。
「そんな論捨てちまえ捨てちまえ。死んだら等しくゴミだろ。敬意を払うだけ無駄じゃねぇ?」
「むっ。それは死生観の違いであり、お前がワタシに反論しても意味は無い。互いに互いの意見を尊重することが大切だ、とも言う」
「そうかい」
我慢出来ねえ、このムシャクシャとした気分を解消しよう。
コイツはゴミだ。
人を殺して、金を得るゴミ。
なら俺が殺しても構わないはずだ。
腰から剣を引き抜き、甲四番を逆袈裟に切り上げる。
それを奴は、懐から抜いた小太刀で受け流す。
「まだ話は終わってない。せっかち」
「速くて困るってこたないだろ。命の取り合いで、よッ!」
その言葉を実現するべく、両手で右上から左下。
跳ね上げて再び、左上から右下へ渾身の二連撃を叩き込む。
凄まじい速度で振るわれる剣は一太刀目で小太刀を弾き飛ばし、二太刀目で無防備な身体を切り伏せる。
はずだった。
甲四番の身体が後ろへ、ズレるように下がっていく。
俺は目を見開くが、すぐに追撃の構えを取るため、左手が腰の『空蝉』に伸びる。
そこには、一拍の間。
『空蝉』から不可視の弾丸を放って追撃を加えるのと、奴の手から真っ黒な鎖が放たれるのはほぼ同時。
いや、全力で攻撃をしていた俺が一歩出遅れたか。
その僅かな差で鎖は銃弾を綺麗に叩き落とし、右腕に絡みついてくる。
瞬間。
右腕の感覚が消失し、剣を取り落としてしまった。
「狙いが正確すぎるのは、読み切るのも容易い。急所さえ守れば他は捨てていいのだから」
甲四番が、物知り顔で語る。
語って欲しいのはそういうことじゃねえ。
「てめぇ……神代具持ちかよッ!」
この道理を無視した現象は間違いなく、神代具の効果。
やられた。
右腕には、俺が一番頼っている『金重』を身につけてるんだ。
それが動かない?
「あまり派手に、暴れすぎ。『神代具使い』。お前の情報、端から端まで全て筒抜けだ」
こいつが普段の殺し屋達とは違うと、取り返しのつかないミスの後に理解した。
完全にここで殺しに来ている。
奴は、頭巾から僅かに見える目で射抜くように見つめてくる。
「さて、得意の爆破を封印されたお前はどう動く? ワタシに、それを教えて欲しい。教えたら、死ね」
絶対絶命。
脳裏によぎったのは、ありふれた言葉だった。
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