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空蝉舞踏会


 まずいまずいまずいまずいまずい!!!


 右腕とは違い、まだ動く両の足で地を蹴る。

 向かうのは、甲四番とは反対側。

 つまり、逃走。


「……? そうか、お前は賢いのか。この場で取るべき動きを弁えている」


 奴が呟く。

 お前に褒められたって嬉しくねえよ、と憎まれ口を叩く余裕はない。


 左手に持つ『空蝉』を握る手が強くなる。

 剣を拾い、持ち直す時間を逃走に当てた俺に、残された唯一の武装。


 考える。

 状況を打開する手を。


 なにか手段はないか。

 持ち物を思い出す。


 ナイフを数本。

『金重』が使えない状態では、ただの刃物だ。

 突破力が足らない。


 銅貨や銀貨をいくらか。

 ナイフと同じ。


『玩具箱』を数個。

 中から仕える神代具を見つける?

 そんな時間は無い。

 硬さはあるから、スイッチを押して投擲するものとしてはマシ、ぐらい。



 何もねえ。

 最初の選択を間違えたんだ。

 どうして俺は最初から、『金重』で爆破しなかった。


 分かってる。

 武器を買って金を使うのが嫌だったからだ。


 要は、舐めてかかっても大丈夫だろうという慢心が原因だ。

 どうせいつもみたいな雑魚チンピラ、と心のどこかで思っていたことを悔やむ。


 だが、反省を活かせるかどうかはここを切り抜けなければ。

 ちらりと、後ろに目を向けると甲四番が迫ってきている。

 奴は、俺の答えが欲しいと言っていた。

 だから逃げる背中に攻撃をしてこないのだろう。


「舐めてかかった相手に、舐められるなんて最悪だ」


 状況を打開すべく、歯ぎしりしながら、俺は『空蝉』の引鉄を何度も引く。

『空蝉』は“辺りの空気を圧縮し、撃ち出す”能力を持つ神代具。

 弾の装填を気にせず片手だけで使えるのは、幸いであった。


 甲四番は何発かの空気弾を切り払う。

 そのどれもは眉間や胸などの急所を狙っていたものだ。

 全部当たっていない。

 牽制として、道を狙った弾には目向きすらしていない。

 奴が言った通りだ。


「正確すぎるのが欠点になるとか思わねえだろッ!」


 走りながら適宜振り返り、弾を撃つ。

 払われた弾が、牽制の弾が、石畳の道に次々と穴を開け土埃を上げる。


 無意味な攻撃。

 今もじっと、俺を見ている奴の目からそう訴えているような声無き声が聞こえてくる。


 それでも構わず、俺は撃ち、走っていた。


 何度も何度も、弾切れを起こすことの無い『空蝉』の銃声が響く。



 その音に隠れるように、一言。


「理解した。ワタシはお前の強さを知り、また一つ強くなれる」


 奴が身体を低く沈ませ、構える。

 手に持った小太刀が、鈍く光る。


「感謝を!」


 そして、俺の首元目掛けて突っ込み。



 手から血を吹き出して、止まることとなった。


「何っ!?」


 驚く甲四番とは逆にようやく余裕のできた俺は丁寧に、そしてここまでさせられた憎さを込めて、口を開く。



「この街が、元々鍛冶屋だった初代国王バルカンの生まれた地って知ってるか?」


 その間にも、甲四番の手足から次々と銃(・)弾(・)のような穴が空き、出血していく。


「バルカンはどうやら若かりし頃、鉄道を作るのに執心していたらしくてな。そのおかげで様々な技術に精通した結果、国王まで登り詰めたんだけどよ」

「何を、言っている! お前の攻撃は見きったはずだ! これはなんだ! 何が起きている!」


 血を吹き出しなながらも必死になって身体を動かし、時には鎖を撒き散らして、俺の仕掛けた攻撃を防ぎ、奴が叫ぶ。

 俺はそれを無視し、話を続けながら『空蝉』で撃つ。


「その前段階? 実験だったか? で、たった一晩の内に街中に鉄でレールを敷いて、物凄く怒られたって逸話があるんだ」


 心臓を狙って『空蝉』から放たれた弾は、あのように攻撃を受け続けてる状態になっても、動き続けられる甲四番の小太刀で払われていく。

 そして、弾は地面に激突し、消えてなくなったかのように見えた。


 だが、それは消えてなどいない。

『空蝉』の所持者である俺にだけ分かる感覚。


「何をしていると言っているんだ! まだ他に神代具を持っているというのか!? それとも、仲間か!?」


 答える代わりに、甲四番の死角から。



 “跳弾”した弾が、次々と突き刺さっていく。


 俺は座り込んで地面に空いた穴に、身体を捻って右腕を突っ込んだ後、その様を見ていた。

『空蝉』の銃弾は、神代具という常識を超えたもので生み出された特別なものだ。


 それは、何かに当たった程度で、払われた程度で、消え去るなんてヤワなものじゃない。

 弾は地面に当たりながら、空中で破片に当たりながら、弾同士ぶつかり合いながら、そこに存在していた。


 目には見えなくとも、弾がどこを飛んでいてどこに向かっていくかが俺には分かる。

 あとはそれを他の弾で調整してしまえば、これこの通り。


 時間はかかっちまったが、銃の結界の出来上がりだ。


 奴が強くても、剣の一振りで弾の動きそのものを止めちまう力を持っていなくて助かった。

 そういうことを出来るやつもいる。

 俺の父親とか。


 そして、結界に閉じ込めたのは、対応力が未だに高い甲四番が回避不能な大技で絶対にぶっ殺すため。

 冥土の土産にその大技のヒントを一つ、伝えてやろう。



「今も、バルカンが作った大昔のレールは」


 地面が紅く紅く光り輝いていく。


「俺達の足元で眠ってんだ」

「ま、待て!」


 一拍の後に轟音と、閃光と、熱波が辺りを包み込んだ。


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