御伽噺『古城に眠る首無し騎士』
古城に眠る首無し騎士。
背表紙にそう記された一冊の本を俺はカレンに投げ渡す。
「これが?」
彼女はパラパラと、頁をめくる。
そして一言。
「読めません!」
「そうだったなぁ……」
俺がしみじみと口に出すと、頭をナターシャに引っ叩かれた。
「店のものを投げるな!」
「いってえなぁ。口で言えよ、口で。なんのために人には口が付いてると思ってんの?」
「じゃあお前の手は人様のものを投げるために付いてきたのか?」
煽られた俺は立ち上がり。
「仕事上物を投げるのは癖になってんだ。悪いな?」
銀貨でジャグリングしながら、キメ顔で言ってやった。
それを見たナターシャは無言で、クルミを素手で砕き。
「私も仕事上、硬いものを砕くのは得意なんだ。試してみるか?」
「おお〜、やりましょうやりましょう! 何まで砕けるんですか!?」
そうやってすぐ脅すの良くないと、俺思うんだよね。
茶化すのも。
カレンという子の考えが予想できない。
どうしてこうなったんだ?
しおらしかった彼女はどこへ?
頭の中で結論の出ない問いが、ぐるぐると回り出したので考えるのをやめた。
今、大事なのは『古城に眠る首無し騎士』の話だ。
神代文字は読めても、普通の文字は読めないカレンのために内容を要約して伝えることにした。
「昔々、あるところにそれはそれは高名で気高く、とても強い騎士様がいたんだ」
俺はその本の隅から隅までソラで言えるほど、知っている。
「ある日、騎士は王の名で凶悪な魔導師を倒しに行くこととなる」
アルビオンに生まれた子供達に必ず与えられる一冊。
子供達は擦り切れるほどにそれを読み、その勇姿を自分の姿に置き換え、夢に見る。
「様々な試練や苦難が騎士を襲うが、知恵や力でその全てを乗り越えていく騎士」
まるで、洗脳をするかのように。
自然と子供達は騎士を目指すことになる。
「ついに、騎士は凶悪な魔導師を打ち倒す寸前まで辿り着く。その時」
昔、言われた言葉を思い出す。
「騎士は魔導師の卑劣な罠で、首を斬られ死んでしまう」
そんなガラクタばかり弄ってると、悪い魔導師みたいになっちゃうぞ。
「だが、首を失ってなお忠義に溢れる騎士は動くことが出来た」
弱いと言われるのは我慢できた。
父親に見限られるのは理解できた。
我慢ならなかったのは、理解出来なかったのは、一番好きなものを貶されること。
「最期の力を振り絞って、騎士は魔導師を殺す。役目を終えた今、その古城には素晴らしき騎士として亡骸が保管されている……」
ナターシャは以前、俺が元の地位に戻るために神代具の研究を行っていると言っていた。
それは当たりでもあるし、ある意味では外れてもいる。
俺は、思い知らせてやりたいんだ。
お前達が無駄なものだと切り捨てたものが、どれだけ優れていたか。
俺のことはどうでもいいから。
俺の好きなものを認めて欲しい。
「これが、古城に眠る首無し騎士。その御伽噺」
これは、復讐だ。
身勝手で、不義理で、少数派による自己中心的な戦争だ。
他所で認めてもらう。
華々しい活躍がしたい。
代替品に興味は無い。
あるのは、あの場所に、あの連中に、あの世界に。
「そして、今。空想は現実となった」
そんな巫山戯たものへと、一人の少女を利用しようとしている。
罪悪感を持っていないといえば、嘘になる。
けれど、彼女はそれ以上に色んな意味で“使える”。
「『魔王』の出現と共に、各地の逸話、寓話、伝説の類は実体を持ち、人間に牙を向ける」
異世界に拉致した神と、知り合いを平気で手にかけようとした異世界人と、俺はなんら変わらない。
カレンという少女でどう己が欲望を果たさんとするか。
最低のクズ。
「指定金級討伐対象『首無し』。俺達が相手にしなきゃならんのは、そういう化け物だ」
へっ、と全てを諦めたように笑う。
いつからか、こうして自虐的な笑みを浮かべることが多くなった。
昔はちゃんと笑えたんだけどな。
俺はぼんやりとそんなことを考えながら、話は終わりだと店の外に出ていく。
自分の悪辣さを再認した今、カレンの顔を見ることが出来なかったから。
本作をお読みいただき、面白い、続きが気になると思って頂けましたら、是非、ブックマークと広告下にあります☆から評価の応援をお願いします。
感想もお待ちしております!
執筆の励みになりますので、応援、よろしくお願いいたします!




