入学式
翌朝、セイは部屋で迎えを待っていた。あの後調べて学園について分かったことは多い。上々の成果だろう。この中で役に立つ知識が十個あればいい方だ。
その時、コンコンとノックがされた。
「入れ。」
「失礼いたします。近衛禁軍副隊長、ワーリッツ・グルハムでございます。皇帝陛下より、城門までこいとの仰せです。」
「わかった、すぐ行く。」
セイは席を立ち廊下を歩く。後ろからワーリッツがついてきているのを感じる。セイに支給された帝国騎士団の制服は黒だ。メンバーによって色は違い、デザインも異なる。軍服のようなデザインの制服はセイによく合っていた。
「帝国騎士団第六席セイ、ただいま参りました。」
城門につくと馬車の中に案内され、その中には皇帝と昨日話しかけてきた騎士団の男がいたので敬礼をした。セイは座る。その座面は予想以上にふっかふかだ。
「さて、セイ。これから騎士学園に行くが学園についてどれくらい知っている。」
そう問いかけていたのはセイと対面に座る金髪の美丈夫だ。渋いかっこよさがあり、威厳がある。皇帝なのだから当然だが。
「一般教養ほどは。」
セイの回答は端的。不必要な装飾はしない。その回答に皇帝は少し頷いてセイの横に座っている男と話し始めた。彼は近衛禁軍隊長兼帝国騎士団第一席のユースタス・ロートだ。任務を言い渡してきただけあって帝国騎士団で一番偉い。
その後は何も話すことなく騎士学園についた。校門からして立派だ、だが皇国戦線で見た要塞カースル程守りを意識していない。そのことを不思議に思う。
(今攻められてしまったらどうする?いや奪い返しやすいようにわざと守りを薄くしているのか?いや、だとしても・・・・)
「セイ、ついてこい。会場はこっちだ。皆待っている。」
「ハッ、すみません。今参ります。」
皇帝に急かされたので敬礼をし、思考を断ち切り駆け足でついていった。あの門はわざとああしているのだと自分を納得させた。皇帝の顔は少し困ったようになっておりユースタスは苦笑していた。
「皇帝陛下、第一卿、第六卿お待ちしておりました。ご案内いたします。」
空から降り注いでいる花びらが朝日に反射した鮮血みたいだなと思いながら後ろについて歩いているとどうやら入学式の会場についたようだった。白髪の男が臣下の礼をして出迎えた。
白髪の男に先導されて三人は入学式が行われる講堂の上にあるテラスにやってきた。中はかなり豪華で正面には舞台が設置されている。下の生徒からも見える位置にあり、セイは戦場じゃすぐ死ぬなと思ったが口を噤んだ。
部屋の中には八名の男女がいてデザインも色も違う服を着ていた。しかし、共通しているのは各々が武器を携帯し、猛者の雰囲気をまとっていることだ。ユースタスがゆっくりと皇帝の前に跪き、報告した。
「帝国騎士団総員揃いましてございます皇帝陛下。」
「うむ、ご苦労。」
凛とした声、威厳があり王の風格をまとったその声がこの部屋に響いた。そこから行ったのは入学式の際皇帝はテラスにある豪奢な椅子に座るのでどこに立ち護衛するのかが肝になる。各々がどこに立つかを決めるがテラスはどこに立っていても下からよく見える。これはイメージ戦略の一環だろうと勝手にセイは推測する。
そして、相談の結果セイが立つ場所は皇帝が座る椅子の左後ろに決まった。それからは部屋の中で殆どの者は寝転がったり果実水を飲んだり結構ダラダラしていた。皇帝の御前なのでとてもセイにはできないが何も言わないということは許されているのだろう。
とてもセイには真似できないが。
直立不動で顔を顰めているセイに声をかけてくる者は居なかった。
『今から三十分後に入学式が始まります。席にお座りください。』
三十分ほど立つとどこからともなく声が流れてきた。
「凄いな、これが校内放送というやつか。」
誰にも聞こえない声でセイは呟く。調べたことが役に立ったようだ。ダラダラしていた帝国騎士団員やユースタスにマッサージをされていた皇帝も真面目な顔になる。
戦場とはまた違うピリピリとした雰囲気にセイは無意識に黒い軍帽をいつもより深くかぶり、目を見えにくくする。少し顔が見にくくなったかもしれない。視界が遮られたのに安心したのか少し雰囲気が緩んだ。
「さあ、始まるぞ。」
皇帝の一言と共に会場が暗くなり、ざわめきもなくなる。壇上には、見知らぬ若い女性が立っていた。
「これより、騎士学園の入学式を執り行います。」
その声は先ほどの校内放送の声だった。あれはどういう原理なのかは知らないが戦場にもぜひ欲しい。それで暗号を伝えれば少しは戦いやすくなるかもしれない。
ふと壇上を見ると若い女性の姿はなく、セイ達を案内してきた白髪の男が喋っている。話を聞くに彼は学園長だろう。これからの上司だ、きちんと記憶しなければ。
「なあ、セイ。お前はいつ軍に入った?」
「八歳の時です。」
ふと呟くように聞いてきた皇帝にすぐに答える。
「初めて人を殺したのはいつだ?」
「五の時ですね。」
その言葉にテラスの全員が少し驚いたような表情をしている。もっと大げさな反応をしそうなやつもいるが流石にそこら辺の分別はわきまえているらしい。
「・・・そうか、皇国戦線はそこまで厳しかったのか。」
辛そうに皇帝が言う。その顔はとてもこのおめでたい場にふさわしくなかった。
「皇帝陛下、その話は後ほどお願いいたします。」
皇帝の耳元でユースタスが囁く。いい判断だとセイは思う。
「うむ、すまない。」
そういった皇帝の顔は王の顔に戻っていた。
その後も入学式はつつがなく進んだ。あの後生徒会会長とやらの言葉があったが無視でいいだろう。気にしなくていい。関わることは無いだろう。
「最後に、皇帝陛下のお言葉でございます。」
一番最初に壇上に上がっていた若い女性が紹介する。スポットライトがコチラに充てられ、皇帝とその周りにいる帝国騎士団員が浮かび上がる。反応は予想とは違った。明らかにセイの方を見て不思議そうにしている者もいる。それも当然だ。帝国騎士団員になってからもあらゆる式典にも顔を出さず、ずっと前線にいたのでセイの顔を知っている者は殆どいない。
だから高名な貴族程疑問に思うのだ。
「我が帝国の誇る騎士学園に入学する若き英才たちよ、わが周りにいる帝国騎士団のような英傑に成長することを期待する。これからも一層、励んでくれ。」
大熱狂。
その激励は厳しい試験を抜けてきた天才達をより一層励ませる。
こうして、入学式は終了した。
「ここでセイとはお別れだな、教師の仕事、期待しているぞ。」
「ハッ。」
そして、皇帝は去っていった。馬車の後姿を数分眺めたのち踵を返して校舎に向かった。激しく風が響き、黒いミディアムマントが桜と共に空に揺れた。その下にある剣が黒い服の中で光っているように見えた。
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