第42話 ㋹ 連城さん
「連城みよさーん。」
陽子の呼び声で入って来た連城さんは常連さんだ。
連城みよ、78歳。
右目は子供の頃の怪我で角膜に濃い濁りがあり、左目も強度近視のため視力は良くない。
要するに両眼とも、あまり視力は良くないのだ。
緑内障もあり、主にその経過観察のためひまわり眼科に通院していた。
一緒に来たご主人と診察室にゆっくりと入って来た連城さんにちらっと視線を向けると、ひとみは思わず二度見してしまった。
右の眉毛が途中から悪魔が持つ三俣の槍みたいに大きく三本に分かれていたのだ。
しかもクレヨンで描いたみたいに濃くて太かった。
左も小さく二本に分かれていたが、右ほどは気にならなかった。
まあ、視力は悪いんだけど・・・
これは酷すぎる・・・
ひとみは連城さんの隣にちょこんと座ったご主人を見た。
連城さんのご主人は小柄で細いおじいさんだが、糖尿病があり眼底検査が必要なので一緒に眼科に通院している。
しかし視力は両眼1.5あり、よく見えているはずなのだ。
奥さんに言ってあげないのかしら?
そんなことを思いながら連城さんの診察を始めた。
目の状態に変化はなかったが、事前にオーダーしていた検査画像の映りがいま一つだったので画像を撮り直してから、もう一度診察室に入ってもらうことになった。
再検査が終わると、連城さんは一人で診察室に入って来た。
「はあ・・・」
席についた連城さんがだるそうにため息をついた。
「疲れましたか?再検査になって申し訳なかったですね。」
ひとみが詫びると、連城さんは首を振った。
「いいえ、違うんです。主人が糖尿病なので、最近ご飯を制限してるんです。揚げ物も天ぷらも食べれないし、薄味にしないといけないし、ケーキやクッキーも駄目で・・・。ひもじくて元気が出ないんです。私は正常なのに・・・。」
連城さんは悔しそうに訴えた。
え、みよさんは普通に食べたらいいんじゃないの??
そう思ったが、口には出さなかった。
毎回、一緒に受診に来るので仲が良いのかと思っていたが意外とそうでないのかもしれない。
眉毛が三つに割れていても放置され、粗食に付き合わされ、みよさんにとってあの旦那さんはどんな存在なんだろう・・・?
ちょっと疑問に思った。
連城さんが出て行くと陽子がしみじみ呟いた。
「旦那さん、あの眉毛は家を出る前に言ってあげて欲しかったですねー。」
やっぱり皆そう思うよね・・・
ひとみも心から同意して頷いたのだった。




