第41話 ㋸ 流川さん
「流川あみさーん。」
陽子の声が響いた。
流川あみ、17歳。
主訴は高校の部活中にテニスボールが目に当たったというものだった。
診察前の視力検査の結果を見ると、右目は1.5だが左目が矯正しても0.2しか出てなかった。
眼圧も少し上がっていた。
お母さんと一緒に診察室に入って来た流川さんは黒いTシャツを着た日に焼けたスポーティーな少女だった。
左目の周りが腫れ、内出血を起こして青黒くなっていた。
目の診察をすると、流川さんの左目は目の中の前の方で出血が生じており中が濁った状態になっていた。
視力低下はそのためだろう。
そして目の奥は診察出来る範囲では網膜剥離などの緊急性の高いものはなさそうだった。
こういうケースは出血が引くと綺麗に治ることが多い。
「目の中で出血しているので視力が落ちていますが、奥は見える範囲は問題はなさそうです。前の方の出血はしばらく安静にして少しずつ吸収されるのを待つしかないです。目の中の出血と炎症で眼圧が上がっているので、炎症止めと眼圧を下げる目薬をだしておきますね。」
目の写真を見せながら一通り今の状態と治療について説明を行った。
「何かご質問はありますか?」
ひとみの質問に流川さんは真剣な表情で尋ねてきた。
「明日の練習は参加していいですか?」
「え?」
しばらく安静って言ったやん!
ひとみは心の中で突っ込みながら首を振った。
「けっこう出血してますし、明日は駄目ですね。」
それを聞き、流川さんは顔をしかめた。
「週末のテニスの試合は出れますか?」
その質問にひとみがカレンダーを見ると、今日は水曜日だった。
週末までにこの出血が全部引くのは厳しいだろう。
「うーん。経過次第ですが、厳しいと思います。」
ひとみの言葉に流川さんは唇を噛みしめ俯いた。
そして、お母さんに促され強張った表情のまま立ち上がった。
くるりと後ろを向いた流川さんの黒いTシャツには白色でデカデカと文字が書かれていた。
『一人はみんなのために!みんなは一人のために!』
流川さんが出て行った後、ひとみは診察台を清掃する陽子に話しかけた。
「あの言葉、部活のみんなで決めたのかな?」
みんなで一緒に勝利を!
みたいな雰囲気だと練習や試合が休みにくいのかもしれない。
ひとみはそう思ったのだ。
陽子はニカッと笑った。
「どうでしょう?意外と顧問の先生の好きな言葉とかかもしれませんよ。私が高校の時は顧問がああいう言葉が好きで勝手に決めてましたよ。」
「へえ、そういうパターンもあるのか・・・。」
流川さんにとって今回の怪我は苦い思い出になるのかもしれないが、これも青春の一ページだろう。
頑張れ、流川さん!
ひとみは心の中でエールを送ったのだった。




