第31話 松本さん
「松本さーん。」
陽子の呼び声を聞きながらカルテの問診ページを見た。
松本清太郎、32歳、男性。
職業欄に公務員と書いてあった。
初診の患者だった。
主訴は1週間前から左目の腫れが生じ、出来物が出来たが痛みはない、と書かれていた。
霰粒腫ね。
主訴を見てひとみはピンときた。
霰粒腫とは眼瞼にできる良性のしこりであり、外来で診る頻度も高い。
マイボーム腺という脂を分泌する腺の出口が詰まり、その中に貯まった脂を処理する過程で肉芽腫を形成したものだ。
治療はまず抗菌薬や炎症を抑える薬で消炎を図るが、なかなか吸収しない場合には手術で治すこともある。
診察室に入って来た松本さんは背の高いスラっとした男性で、見た目も小綺麗な印象の人だった。
診察するとやはり霰粒腫だった。
ひとみは病気の説明をした後、治療について説明した。
「というわけで、抗菌の目薬と炎症止めの目薬を出しておきますね。」
それを聞いて松本さんは急にモジモジしだした。
「僕、目薬させないんですよね。どうしてもその薬じゃないといけないのですか?それなら頑張りますけど・・・。」
小さい子供で目薬を嫌がるというのはよく聞く話だが、30代でそれをここまで訴えてくるのは珍しい。
「・・・同じような成分の眼軟膏もありますけど。」
それを聞き、松本さんは即答した。
「それにして下さい。」
こうして松本さんは眼軟膏を貰って帰っていった。
「32歳で目薬させないとか、将来緑内障とかなったらどうするんでしょうねえ?」
緑内障は放置すると失明することもある病気で、進行を止めるために毎日の治療薬の点眼が欠かせないのだ。
陽子の言葉にひとみは噴き出した。
「どうしてもその薬じゃないといけないなら頑張れるみたいだから、大丈夫なんじゃない?」




