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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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30/39

第30話 堀さん

「堀芳子さーん。診察室へどうぞー。」

陽子の声が待合室に響いた。


堀芳子、70歳。

5年ぶりに受診に来られた患者さんだ。

主訴は両目の痒み。


「おはようございます。今日は目の痒みがあるんですか?」

席についた堀さんにひとみが尋ねた。


「はい。2週間前から両目が痒くて、以前眼科でもらったアレルギーの目薬を差したのですが治らなくて・・・。」

ひとみのクリニックの受診は5年ぶりだ。


「他の眼科でもらった薬ですか?」

「いえ、こちらで前にもらった分です。」


目薬には使用期限があり、ボトルのどこかに期限が記載してある。

たいてい2~3年くらいだが、それは未開封の場合だ。

開封後は雑菌が繁殖したり劣化したりするので使用期限が1か月とされる物が多い。


「目薬は開封すると使用期限が1か月なんですよ。」

「ええっ、そうなんですか?」

「新しい薬をお出ししておきますから、古い分は廃棄してくださいね。」


堀さんはアレルギーの目薬と炎症止めの目薬をもらい帰っていった。



外来をしていると、堀さんのような人はたくさんいるし、もっと強者も存在する。


多いのは、どんな症状であれ家にあった目薬を適当にさすケースだ。



先日クリニックに来た細川さんという50代の女性は、目が痛かったのでアレルギー性結膜炎で受診した時にもらった家にあった目薬をさしたら悪化したと受診された。


アレルギー症状が強く痒みが酷い場合、ステロイドという成分が入った目薬を出すことがあるが、感染症などの場合ステロイドを単体で使うと悪化することがあるのだ。


細川さんはヘルペスというウィルスが目に入り込んでいた。

治療は抗ウィルス薬だ。


もっと凄かったのは、見えにくいと受診に来られた60代の本田さんという男性だ。以前から白内障を指摘されていたとのことで実際白内障が進んで視力が少し下がっていた。


「視力の低下はありますが、今の視力だと手術をしても様子を見ても、どちらでもいいくらいのレベルですね。様子を見る場合、白内障の進行予防の目薬もありますよ。」


ひとみの言葉に本田さんは真顔で答えた。

「いえ、目薬は結構です。犬の白内障用の目薬を私も差しているので。」

「えっ、犬?」



堀さんが出て行った後、陽子がしみじみと呟いた。

「5年前の目薬をさすなんて勇者ですねー。」


「そうね。」

ひとみも苦笑しながら頷いたのだった。


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