第29話 辺見さん
次のカルテは再診の女性だった。
辺見忍、64歳。
左側の瞼が腫れて痛いという主訴だ。
カルテをめくると、2か月前にも同じ主訴で来院している。
パラパラめくると、過去にも定期的に同じ症状を生じ、いつも眼瞼ヘルペスの診断でヘルペス用の薬が処方されていた。
ヘルペスとはウィルスが原因の疾患なのだが、風邪をひいたり、疲れがたまって免疫力が落ちた際に発症することが多い。
疲れてるのかなあ?
しかし場合によっては、免疫力が落ちる病気などに併発することもある。
持病も確認しておくか・・・
そう思い診察後、辺見さんに尋ねた。
「今回も眼瞼ヘルペスですね。ヘルペスは免疫力が落ちた時などに出やすいんです。カルテを見ると何回も繰り返しておられますが、何かそういう免疫力が落ちる持病とか、疲れやすい原因などがあれば・・・」
ひとみの言葉に辺見さんはキッと顔を上げた。
「夫の実家です。夫の実家行くと毎回ヘルペスが出るんです。」
「・・・」
「夫の母がきついんです。」
辺見さんは姑さんと上手くいってないようだった。
「大変ですね・・・。」
結局、この日もいつもの薬を処方して辺見さんは帰っていった。
それから1年後。
久しぶりに辺見さんが受診に来た。
主訴は両眼の充血・目やに。
あれ?ヘルペスじゃなさそう・・・
診察すると、普通の結膜炎だった。
「今回はヘルペスじゃないですね。受診もお久しぶりですし。」
ひとみの言葉に辺見さんはにっこり笑った。
「前回ヘルペスになった直後に、夫が急死したんです。それから夫の実家に行くことも無くなって。」
急死って、お義母さんじゃなくて旦那さんの方⁉
「そうだったんですか。大変でしたね。」
他に何と言っていいのか分からず、しんみり相槌を打ったひとみに辺見さんはそれはそれは爽やかな笑顔を見せ言い放った。
「あれから一回もヘルペスになってないんです。」




