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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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第28話 布施さん

「布施さーん。」

陽子の声が響いた。


布施大二郎、38歳。

糖尿病を長年患っており、眼底に出血などの異常が出ていないか三か月ごとに定期検診で通院している患者さんだ。


糖尿病のコントロールはいまいちで、その巨体を見てもあまり健康に気を使っていないのがよくわかる。

しかし、大らかで悪い人ではない。


どっこいしょ、と言いながら席に座った布施さんを見てひとみが尋ねた。

「お変わりはないですか?」

「右目に一か月前から黒い虫みたいなのが飛んでるんっすよ。」


飛蚊症という症状だ。


実際に虫が飛んでいるわけではないのに、視界にホコリや虫や糸くずなどの浮遊物が飛んでいるように見える症状が出る。

原因は眼球を満たしている硝子体というゼリーが濁ることによるもので、濁りの原因は加齢だったり病気だったりとさまざまだ。


そのほとんどは加齢によるもので治療は出来ないのだが、散瞳検査という瞳を広げて眼底を見る検査で、病気か加齢かを判断する必要がある。


布施さんは元から糖尿病の眼底検査で通っていたので、瞳が広がった状態で診察室に入って来ていた。

そして、眼底を診察しても悪い病気はなかった。


「目の奥に悪い病気はないですね。飛蚊症の原因は目の中にあるゼリーに老化などで汚れが出来て、それが見えているんですよ。その汚れが周辺部に行くと症状が消えたり、真ん中に戻ってくると症状がでたりします。残念ながら、目薬や飲み薬では治療はできないんです。」


ひとみの説明を聞いて、布施さんが尋ねてきた。

「パイナップルがそれに効くって聞いたんですけど。」

「パイナップル?」

「YouTubeで言ってたんっすよ。」


パイナップルにはたんぱく質を分解する酵素が入っていて、パイナップルを食べると硝子体にあるたんぱく質を分解して症状が治ると言っていたとのことだった。


「で、この一か月パイナップル食いまくったんですけど、治らなくて・・・。」

「布施さん・・・、血糖値めちゃくちゃ高いのにパイナップルをたくさん食べたら糖尿病悪化しますよ。」

「あっ・・・」


目には変化が無かったので、今まで通り三か月後の検診の予約を取って布施さんは帰っていった。


気になったので布施さんが出て行ったあと、調べてみると台湾で行われた研究でパイナップルを3カ月食べたら飛蚊症が改善されたという報告が本当にあるようだ。


しかし、今の時点では一部の小規模な研究に基づく報告にとどまっており、信頼性や再現性については微妙なところのようだった。


「何でも鵜呑みにしたらYouTubeも怖いですねー。」

陽子が検査台を拭きながら呟いた。


「そうね。」

苦笑しながらひとみも頷いたのだった。


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