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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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第27話 日野さん

「日野駿くーん。」

陽子の声が待合室に響いた。


日野駿、六歳。

主訴は学校検診で視力低下を指摘されたというものだった。


今日は五月の末だが、学校検診は四月末から五月に行われることが多いので、それで引っかかった子供がゴールデンウイーク明けから今の時期にかけてよく受診に来るのだ。


備考欄に〇✖小学校と書いてあった。

名門私立大学の付属の小学校だ。


診察前の視力検査を見ると、裸眼視力が両眼とも0.3しかなかった。

矯正視力は両眼1.5あった。


小一の視力にしては悪いなあ。


ひとみはそんな感想を抱きつつカルテをよく見た。


んっ?


矯正視力の加入度数を見るとゼロだったのだ。


視力を測る時、近視があればマイナスのレンズ、遠視があればプラスのレンズを加入して検査をする。


しかし、駿君の場合、まず-1のレンズを入れ、その後に+1のレンズを入れて検査をすると1.5の視力が出ていた。


つまり、駿君は度数を入れなくても裸眼で1.5の指標が見えているのだ。


こういったトリック法で視力が出る場合は心因性視力障害のことが多いと言われている。


診察室に入って来た駿君は真面目そうな男の子だった。

一緒に入って来たお母さんはちょっと派手な感じの女性だった。


診察をしたが、駿君の目に特に変わった所見はなかった。


「駿君。先生、お母さんとお話したいから外の待合室で待っててくれるかな?」

ひとみの言葉に駿君は頷いて、診察室を出て行った。


一方、残されたお母さんは不安そうな表情を浮かべていた。


俊君のお母さんに、行った検査内容と結果を詳しく説明した上で、こういう結果の場合には心因性のことが多いという話まで伝えた。


「何か心当たりはありますか?」

ひとみの質問にお母さんは即答した。

「あります!」


いじめなどの場合は親が把握していないことも多いので、これほどハッキリ即答する保護者は珍しい。


「四月から小学一年生になったのですが、通学に片道一時間かかるんです。それで毎朝五時半に起きるようになったんです。」

お母さんは納得したような表情を浮かべながら、ひとみにそう説明した。

「なるほど、それは小さい子にはしんどいかもしれませんね。」


お母さんは笑顔で頷いた。

「はい。だから、平日の習い事も全部やめさせたんです。」


「四月からだと、まだ二か月弱ですしねえ。まあ、それが原因なら身体が慣れてきたら視力も落ち着くかもしれませんね。」


お母さんは笑顔で頷いた。

「はい。習い事は週末の塾だけなんで。」

「えっ?」


結局、駿君は経過観察となり三か月後に視力の再検査を行うということで帰って行った。


「駿君、治りますかねえ?」

陽子が呆れたような口調で尋ねてきた。


「どうだろうね。」

ひとみはそう答えるしかなかったのだった。


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