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ひとみ先生の眼科診察室  作者: らな


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第26話 浜田さん

陽子から渡されたカルテを見ると表紙に鉛筆でNが三個書かれていた。

NとはNervous、つまり神経質を意味するNだ。


星と同じく、数が多いとより一層神経質ということを表している。


うわあ、めんどくさそう・・・


ひとみはげんなりしながら、カルテをめくった。

浜田雄二、三十六歳。

この二、三か月の間に五回も受診している。


主訴はずっと一貫して、左目がコロコロするというものだった。


全く記憶に残っていないが、初診はひとみが診察していた。

角膜に傷はなく、結膜にも充血も腫れもなく、睫毛も当たっていない、瞼の裏の結膜にも異物や何か出来たりという異常所見が無いと書かれていた。

しかしコロコロの訴えが強かったため、その日は保湿の目薬を処方していた。


ひとみの勤めているクリニックは土日や祝日も開いており、多数の医師で外来を回している。

たまたまだろうが、浜田さんは過去五回すべて異なる先生の日に受診していた。


全ての先生が所見に異常なしと書いたうえで、眼精疲労の目薬やドライアイの目薬など害のなさそうな薬を処方していた。

カルテをよく見ると、途中で隣町の佐藤眼科と鈴木眼科も受診して異状がないと言われたと書かれてあった。


つまり七人の眼科医が全員、所見に異常なしと判断したのである。


「これは眼科じゃない気がするよね。」

カルテを読み込み、ひとみは苦笑して陽子に話しかけた。

「そうですねえ。」


不安神経症のように、根拠なく自分が病気なのではといった不安や心配を感じてしまうような精神的な要因が絡んでそうだ。

そうなると眼科ではなく、精神科や心療内科といった科での治療になる。


しかし、こういった場合、本人への伝え方が難しい。


何て伝えたらいいかしら・・・


陽子に呼び入れをしてもらいながら、ひとみは悩んでいた。


「浜田雄二さーん。」

陽子に呼ばれ診察室に入って来た浜田さんは確かに神経質そうだが、シュッとしていて整った容姿の男性だった。


目を診ても、やはりこれといった所見は無かった。


「浜田さん。目には特に所見が無いですね。」

ひとみにそう言われ、浜田さんはがっかりした表情を浮かべた。


「所見が無いのにこういった症状が続く場合なのですが、ストレスなどで心が疲れている時とかはですね。身体の弱い部分が痛いとかコロコロするとか感じやすくなったりすることがありまして・・・」


他科受診につなげようとひとみが遠回しに話をしていると、浜田さんがクワッと目を見開いた。


「ストレス⁉ 僕にはストレスなんてありません‼ 強いて言えば目がコロコロするのがストレスなぐらいです!」


強いて言えば・・・


結構な勢いでひとみの話に反論してきた浜田さんをみて、他科に繋げられる余地はなさそうだと感じた。


今日は撤退しよう。


そして、今日も害のない緩めの炎症止めの目薬を処方され浜田さんは帰って行った。


ひとみは心の中で先日受診したCSCの野村さんに向かって叫んだ。


野村さん!ここにストレスのない人、存在してましたよ!


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