第3話 宇田さん
「宇田碧さーん。おはようございます。」
碧ちゃんは2歳。初診の患者さんだ。
受付でとった問診票をみると、”充血”と書いてある。
お母さんに抱っこされて入ってきた碧ちゃんは不安そうな顔をしている。
おそらく小児科で注射などの経験があって、白衣を着ているひとみに恐怖を感じているのだろう。
このくらいの子供は入ってくる前から泣いている子もいるので、碧ちゃんはお利口な方だ。泣かれるとそのせいで充血するので、その点でも助かるのだ。
不安げにひとみを見る碧ちゃんと目が合った。
「・・・?」
充血・・・?
どっちの目かしら?
パッと見る限り、どちらの目も赤くない。
「すみません。お母さん。充血ということですが、どちらの目ですか?」
「右目です。」
碧ちゃんのお母さんはきっぱりと答えた。
こういう時は逆らわない方がいいのだ。
小児用の手持ち顕微鏡で碧ちゃんの目を診た。
赤いと言えば、言えなくもないけど・・・?
「アッカンベーするよー。はい、アッカン・・ベー。」
碧ちゃんは必死にベロを出している。
眼を診るだけなので舌を出す必要はないのだが、このくらいの子供はアッカンベーというと皆一生懸命に舌を出してくれる。
日本の子供って、きっちり教育されてるのね・・・。
ひとみは内心感心しながら碧ちゃんの眼を診た。
「そうですね。起きた時などもっと赤かったのかもしれませんが、今は改善していますね。大丈夫ですよ。」
「ああ、良かったー。」
お母さんは安心したように笑顔になった。
子育てをしていると些細な症状がすごく気になる親がいるのだ。
親を安心させるのも仕事のうちだと思っている。
「万が一、悪化するようなことがあればまた受診してくださいね。」
その言葉にお母さんはホッとした表情で頷き、碧ちゃんを抱っこしながら出て行った。
待合室から碧ちゃんがお母さんに話しかけている声が聞こえてきた。
「あっちゃん、泣かなかった。偉かった?」
「うん。偉い偉い。」
今にも泣きそうだった碧ちゃんの顔を思い出しながら、ひとみも笑顔になったのだった。




