第24話 根本さん
「根本陽子さーん。」
陽子が根本さんを呼び入れた。
根本さんは78歳。
ショートカットが似合う、明るくて元気なおばあちゃんだ。
ドライアイの症状を訴え、角膜に傷があるためヒアルロン酸の入った目薬を処方している。
視力も良いし、他に特に目に問題はない。
「根本さん、お変わりはないですか?」
いつもの質問に根本さんは真剣な表情を浮かべた。
「先生、目薬変えて欲しいねん。」
ひとみは、あれ?と思った。
長い間、問題なく続けている薬だ。
「どうしてですか?」
「あんな、あの目薬さすと外人が見えるねん。」
「・・・えっ?」
もちろんそんな副作用のある目薬はない。
ひとみが戸惑っていると、根本さんが念押しするように言い直した。
「あの目薬さすと大きな外人が見えるから怖いねん。怖くてさされへん。」
一生懸命訴える根本さんの表情は真剣だ。
これは否定したところで、水掛け論になりそうだ。
「わかりました。じゃあ、目薬を変えましょう。別のドライアイのものにしましょう。」
「ありがとうございます!」
そして、根本さんは異なるタイプのドライアイの目薬をもらい、機嫌よく帰っていった。
「どんな外人が見えたんだろうね?」
ひとみはクスクス笑いながら陽子に尋ねてみた。
「そこは先生が聞いてほしかったですけどね。まあ、少なくともトム・ク〇ーズとかレオナルド・ディカ〇リオみたいなのじゃないですよね。怖いって言ってましたしねえ。マ〇ク・タ〇ソンみたいなやつじゃないですか?」
マ〇ク・タ〇ソンとは世界チャンピオンだったボクシング選手だ。
ムキムキで迫力がある。
「そんな作用がある目薬があったら逆に売れそうだね。」
「そうですねえー。」
ひとみは笑いながら陽子に書き終わったカルテを渡したのだった。




