第23話 布井さん
西井さんがトボトボと出て行ったあと、ひとみは次のカルテを見た。
初診の患者さんだった。
布井麗華、32歳。
問診表を見ると、昨日から右目の腫れと痛みが生じたと書いてあった。
麦粒腫ね。
楽勝!
ひとみは心の中でガッツポーズをした。
麦粒腫とは瞼に細菌感染が起こって、赤くなったり腫れたりするもので、痛みを伴うことが多い。
一般的に”ものもらい”と言われているものだ。
治療は抗生物質や炎症止めの目薬と決まっており、診るのが簡単なのだ。
「布井麗華さーん。」
陽子が布井さんを呼び入れた。
そして入り口から入って来た布井さんを見て、ひとみは目を限界まで見開いた。
先ほどトボトボ出て行った西井さんの頭の位置くらいにある高い腰骨。
出るところはボンッと出て、引っ込むところはキュっと引っ込んでいる。
素晴らしいスタイルを強調するようなピタピタの服が、その美しさをより引き立てていた。
この辺りではついぞお目にかかったことのない非常にゴージャスな美女が入って来たのだ。
か〇う姉妹?
うわあ、何者・・・?
「こんにちは。よろしくお願いします。」
布井さんは感じのいい笑顔を浮かべ患者さんが座る席についた。
さっきまで小柄な西井さんが座っていた平凡な席が異世界のような空気を醸し出していた。
診察すると、予想通り麦粒腫だった。
程度としては大した腫れではなかった。
「ものもらいですね。抗生物質の目薬と炎症止めの目薬をお出ししておきますね。」
ひとみの説明を聞いて布井さんが質問してきた。
「治るのにどれくらいかかりますか?私、来週コンテストなんです。」
何のコンテストとは聞かなかった。
このルックスとこの会話の流れで料理コンテストとかのはずはない。
ああ、なるほど。そういう感じよね~。
妙に納得しながら、ひとみは答えた。
「この程度の腫れなら薬が効けば3,4日で良くなると思います。抗生物質の眼軟膏や飲み薬もありますけど・・・。」
「出せるものは全部お願いします。」
布井さんは必死だった。
「じゃあ、飲み薬もお出ししておきます。一日三回、毎食後に飲んでくださいね。」
ひとみはそう言いながら、一日三回毎食後とカルテに書き込んだ。
「先生。」
布井さんが真剣な顔で尋ねてきた。
「どうしました?」
「私、三日前から食事は全部プロテインなんです。」
「・・・・・・ではプロテイン後で・・・。」
想定外の質問だ。
これで合ってるよね⁇
ひとみは内心ドキドキしながら”食後”の部分を二重線で消し、”プロテイン後”と書き換えた。
布井さんは望む治療を受けられて、満足そうに診察室を出て行った。
休憩時間になり、布井さんの名前をネット検索するとすぐに出てきた。
ミスコンの受賞歴があった。
ああ、ああいう人ってやっぱり陰でめちゃくちゃ努力してるのねえ。
私は食事がずっとプロテインなんて無理だわ。
ひとみは少し前に徳永さんから貰った”ストレスに打ち勝つ!ギ〇バ入り”チョコをモグモグしながら心の中で呟いたのだった。




