第12話 清水さん
「清水志保さーん。おはようございます。」
診療助手の陽子が患者さんを診察室に呼び入れた。
名前を聞いて、ひとみはニンマリ笑った。
今日は何が入ったのかしら?
清水さんはある意味ひまわり眼科の常連さんだ。
ひと月に1回くらいのペースで目に何かが入るのだ。
診察室に入ってきた清水さんは椅子に座ると今朝の出来事を話し出した。
「家の外を掃除していたら2階から植木鉢の水が垂れてきて右目に入ったんです。」
そんなことある?!
笑いそうになる顔の筋肉を引き締めながらひとみは尋ねた。
「今、目がコロコロしたり痛みはありますか?充血や目やにはどうですか?」
「入った時は少しコロコロしましたが、今は何ともありません。」
清水さんは真面目な顔で答えた。
「では、ここにお顔を乗せて目を診せてくださいね。」
細隙灯という眼科診察用の顕微鏡に清水さんは顔を乗せた。
「黒目も白目も傷はありませんね。粘膜の炎症も出ていません。」
らなの言葉に清水さんは笑顔になった。
「よかったー。私、よく目に物が入るから。」
よく物が入るって自覚あったんだ!
安心した清水さんは今日は薬の処方もなく帰って行った。
清水さんが出て行った後、ひとみはカルテをパラパラめくった。
この1年で14回、目に何かが入ったと受診している。
一番多いのは、バス〇ジックリンだ。8回入っている。
「お風呂の掃除をしていたらバス〇ジックリンが目に・・・。」
もっとゆっくり掃除すればいいのにと思うが長年の習慣は変えられないのだろう。
あとは家の中にいて2階から落ちてきた水が入ったとか外を歩いていて空から降ってきた液体がなどなど・・・。
家にいて2階から水って、どんな構造の家なんだろう・・・。
いつも上を向いて生活しているのかしら?
いろいろ思うことはあるが、性格の良い清水さんの診察は全く苦ではない。
今度は何が入って受診するのかしらね。
そう思いながらひとみは清水さんのカルテを片付けたのだった。




