表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロザリオの掩祝  作者: 民間人。
第五玄義:無垢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/42

刺激的な都市と関心事項の多様化

 目玉が治ることはないが、時折ひりひりと幻痛を感じる時がある。眩しい明かりを見た時に、ぴりぴりとした感覚が起こったり、形のない物がムズムズとする感覚が起こる。


緑のカーテンが揺れる遠大な農園の景色と、それらと外部を隔てる巨大な城壁の威圧感。防壁の背の高さは、施設の巨大な壁より数メートルも高いほどだ。圧倒的な威圧感のある、この巨大な防壁が、世界中の穢から民草を庇う最前線なのであろう。

徐々に近づいてくる城壁に、くすんだ黒い跡や、モルタルの剥げ落ちた痕などが見られるようになる。剥げ落ちた部分から僅かに覗くのは、露わになった積み石の無骨な在り様である。巨大な石の間に細かな石を挟み込むようにして積み上げられた構造は、軽重様々な石材によって巨大勝堅牢な積み石の比重を分散させて、細やかに支える役割を担っている。それゆえ、白い外壁のモルタルは、強度よりも繊細さを重視したのであろう。何故ならモルタルは、重さを支える強度はないのだから。


「これで穢れを防いでいるのですか?」

「外の民はそれほど穢れを気にしないよ。これは外部からの侵略から身を守るための防壁だ」

「赤の民よりも外側に悪い奴らがいるのか?」


 僕と男との話の間に、グッズが文字通り首を突っ込んできた。こいつ、これから構造の詳細な話をしようと思ったのに、うわべだけの解説になったらどうする気だろうか?


「赤の民よりも、というより・・・。施設の外にある闘争はずっと厳しく際限がないんだよ。だから、敵が悪いかは状況によるし、場合によってはこちらの都市が悪い時もある」

「悪いなら謝ればいいんじゃないの?」


 あー・・・こいつ本当に、単細胞というか、愚鈍というか・・・。あ、そう、無邪気なんだね。とっても無邪気だから、考えるという仕草をしない愚かしさがあるんだね。僕は隣で苛立ちながら聞いているけれど、それを理解する脳もないんだよね?もうちょっと勉強しよ?

 こういうことをオブラートに包むために時間をかける間に、二人の会話の応酬は次々に進んでいく。


「悪かったよ、って謝ると、許すどころかどんどん要求を強めてくるんだよ。それは、相手も自分も欲望の中で生きる存在同士だから、穢土の人々にとって当然のルールなんだ」

「じゃあ、奪い合ったり騙し合ったりしても平気な顔してるのか!?悪い奴だな・・・」

「そう・・・でも、悪いことをしてでも日々の生活があるのだから、パイを奪い合うのは仕方ないことなんだよ」

「へぇー・・・。俺達の方が変なのかぁー・・・」

「うーん、変というか・・・。純粋なんだと思うなぁ」


 グッズはようやく喋るのをやめ、城壁の跳ね橋が開かせたその姿を指差して、ぎゃあぎゃあと歓喜の声を上げる。残った片目はきらきらと光を湛えており、まるで自分が一匙も汚れていないという様子である。

 僕は黙ってモルタルの剥げ落ちた中身を観察し、その強度と建築物としての用途を再咀嚼する。


 この防壁は、『穢れ』を防ぐための精神的防壁ではない。ではなぜ、モルタルという強度の低い建材を用いて、外部を装飾したのか。それは、文化的優位性を相手に見せるという形で、敵を威嚇するためのものではないか。つまり、この都市は、どこまで行っても経済的には白の民の施設を支持するための基盤の中にあって、つまり彼らの経済活動に、白の民の関連は少なくないはずである。それらを守るために、施設という巨大な信仰の加護があるのだぞ、という、世俗的な利益を超えた威嚇を示しているのかもしれない。外部の侵略者からすれば、それは破壊の対象でしかない気もするが、それでも、何らかの心理的な威圧を期待している可能性は高いだろう。

 では、城壁の構造はどうか。この城壁は、石垣に近い構造を持つ巨大な堤防であり、盾に高く積み上げるために、途方もなく横に長い広がりを見せている。煉瓦造りの防壁を遥かに凌ぐ厚みを実現した反面、やや傾斜がなだらかになっており、どちらかと言えば自然にできた丘に近い防御的価値があると言える。

その代わり、城壁では実現できなかった上部を自由に往来でき、見晴らしの良い物見台の役割を、防壁の頂上がそのまま担うことができる点で、優れた危機察知能力があると言える。また、自然と積み石の防壁を擁するために分厚くなだらかになったことから、純粋な横からの衝撃力へ対する防御力は極めて高く、振動に強く、倒壊の恐れが低い点も強みと言えるだろう。

総じて、この防壁は心理的・物理的防衛ラインであるものの、踏破の困難性で敵の侵入を阻むというよりも、高い攻撃力の攻城兵器を無力化しつつ、事前の危機察知能力と敵の長大な移動コストをその厚みと高さで稼ぎながら、高所からの優位性を保ったまま敵を迎撃する目的の防壁であると言える。単純な壁の突破を目的とした攻城兵器には強いが、踏破力と機動力に優れた乗り物による侵略にはやや弱いのではないだろうか。


荷車は、施設のそれよりも長い堀の上にかかった、非常に長大な跳ね橋を渡る。緑の民側にある都市の警備は暢気なもので、市民兵と思われる兵士もあくびをしながら棒立ちしているに過ぎない。


一旦門の前で止まった荷車の周りを、この暢気な兵士達が囲みこむ様は、白の民の警備兵たちのような、どこか気の抜けた警戒態勢を彷彿とさせる。

逆に言えば、良し悪しはどうあれ、これこそが白の民の守ってきた『圧倒的な平和』の成果と言えるかもしれない。


医師は通行証を提示し、僕達を指差して『穢土送り二名です』と伝えたかと思うと、兵士は片手に持った名簿を捲り、僕達に顔を近づけてきた。

僕の顔を見るために屈み込みながら、柔和な笑みを浮かべた兵士は、「お名前は何かな?」と問いかける。僕は怯えた風に「ノゼンダ、です」と答えた。

すると、名簿を確認した兵士が僕の頭をくしゃくしゃと撫で回し次にグッズに同じことを問う。僕よりも溌溂とした声で名前を答えたグッズに、兵士は嬉しそうに「お、元気がいいねぇ」と声を掛けた。それが大層嬉しかったのか、グッズは無邪気な笑顔を返した。

 僕達の名前を確認した後、兵士は男に向けて「ハイ、大丈夫ですよ、どうぞー」と、暢気に声を掛ける。後ろ歩きで荷車から距離を置くと、定位置に戻って背伸びをして体を解し始めた。


荷車が動き出す。大きな洞穴のような、長い門をくぐる。内側にある積み石の重い比重を支えるために、一定間隔で数本の、石製の支柱が設置されている。壁面に目を凝らせば、そこはコンクリート製のきわめて強靭な壁で分厚く塗り固められ、その上で、道の脇に延々と連なる鉄製の楔を連ねた支えで、崩落を防いでいる。石の支柱がある位置には、きちんと梁も廻らせてあり、防壁の門を設けるにあたって、強度の面で苦悩した様子がありありと示されている。


さて、暗い道が延々と続いた後、出口から漏れる光は恐ろしく眩しく思えた。完全に目が闇になれるほどの長さを移動してから、一直線に照る星の明かりを吸収した眼球は、その強烈な刺激に耐えかねて目が眩む。チカチカと色の残るほどの強烈な刺激の後、年の外観が徐々に開けてくる。


「「わぁ・・・」」


グッズと異口同音に、思わず声感嘆のが漏れた。白の民の共有区は、どちらかと言えば静謐な雰囲気のある集会場である。荷卸し場とそこを出た直後の、定期市の際の混沌とした様子はごく限られた時間の活気であるため、人によっては関わりがないことも多い。僕もその一人だし。


だが、これはどうだ。建物の軒下に庇を広げ、突き出した店舗に並べた商品棚には、様々な品々が並んでいる。茶の民のけたたましいだみ声が溢れ返り、軒先で小僧に洗いもの仕事をさせる黄の民が、鉄を打つ高い音も混ざり合って響いてくる。

荷車を押していると、通りすがりに放し飼いの鶏が横切ったり、首輪をつけた犬が道の中央に躍り出て自分の尻尾を追い掛け回したりしている。


雑音という雑音を合わせた強烈な熱気の中を、人と人、物と物とが行き交って、互いに目当ての品を取引している。

この圧倒的な賑わいを目前にして、僕はふと、施設との対比を思い起こして彼にこう問いかけた。


「商品を内部で消費するだけでは・・・経済にも限界がありましょう」


 男も目を瞬かせ、感心した風に答える。


「おぉ、そうだね。町の外に、この町の特産品を売りに行く行商人や隊商もいるよ」

「そうした人たちは、穢土の向こう側の世界を知っているのですか?」

 話してみたい、知りたいことがどんどん広がっていく。

「おい、見ろよ、犬がうんちしてる!」

 おいちょっと黙ってろグッズ。


 男は苦笑いをしながらグッズを撫でつつ、僕の質問には真摯に答えた。

「知らないと、全然別の町に辿り着かないからね。だから彼らの書いた地図も、高値で取引されている」


 恐らく行政区には、外交交渉を担う部署もあるのだろう。そこに在る人々は、外の世界を一匙も知らないと思うと滑稽である。

 つまりは、僕は彼ら高官の知らない世界を知ることができる権利を手に入れたわけだ。それがどれほど貴重か、頭の作りが良くない人の中には分からない人もいるだろう。

 あ、例えば、グッズとか。


「おーい、鶏、鳴け、鳴け!ははは、すごい、生きてるのはじめて見たっ!」

「まぁ、僕もはじめて見ましたね」


 動物に関する反応が少しはマシになったので、思考でカバーできる範囲で答えてやった。すると、反応が嬉しかったのか、グッズは次々に物を指差し、あれが、これが、と報告し始める。

 うるっせ!!


 ともあれ、荷車は都市の奥へ奥へと進んでいく。やがて広い市場から、入り組んだ集合住宅地へと景色が移ろう。


 狭い路地がすっぽりと、建物の影に覆われている。荷車が一台入ってしまえば、もうすれ違うには身を捩るしかない。家と家の間に空間はなく、まるで建物が一つの繋がりを持った施設のよう。しかし、壁の仕切りは確かにみられ、それが長く、平坦に、二階建てで視界の端まで続いている。

 ちょっと酸っぱい臭いがする婦人や、つやつやの髪をだらしなく垂らしながら荷車を避ける男など、明らかに身を清める文化のない人々が、時折鬱陶しそうに荷車とすれ違っていく。荷車を押す男のが額に薄ら汗をかいているのを見て、僕は思わず彼に声を掛けた。


「まだかかりますか?」

「このずっと奥だよ」

「少し開けた場所で休みませんか?」

「はは、この一帯にはそういう場所はないな」


 そこにつく前に家についてしまうよ、という答えが続く。視線を上へ上げると、路地の狭さに対応した、ほとんど空の見えない僅かな空隙だけが、澄んだ聖色(ひじりいろ)※7 を切り取っている。


 こんな狭い空間に人がひしめき合っているというのは、例えば病魔や汚濁の危険性へ対する都市の無防備さを物語っている。今荷車を支える手が極めて清浄であることは、殆ど奇跡と言ってよい事実である。恐らく、この地域の人々は・・・


 そう思考を巡らせた矢先、眼前に飛び込んできたのが、集合住宅と集合住宅を繋ぐアーチ状の渡り廊下の上で歩く若い男女の姿である。案の定というべきか、男の肌は日に焼けており、その顔や手はできもの※8 だらけで、衣服も黒ずんで汚れている。洗濯や、清浄の概念が生まれる余地がないほど、この場所での生活は過酷を極めているのである。


「あの・・・人々の健康や清浄は、この場所では軽視されているのですか?」

「ははは・・・。それが、僕の仕事が意味を持つ理由と言えるかもね」


 彼は少し寂しそうに狭い空を見上げながら、「人の不幸が稼ぎ頭なのさ」とぽつりと呟く。それは、とても悲しげで、男の長い睫毛を魅力的に装飾した。

 町はどんどん洞穴のように暗くなり、影と影の重なる闇のような空間に変わりはじめる。その闇の中に入った矢先、彼は方向を変え、幾つもの渡り廊下が二つの建物を繋ぐ、先ほどよりさらに狭い路地へと入っていく。奥へ、奥へ進んだ突き当りで、ようやく彼は荷車の手を離した。


「・・・ふぅ。お待たせ。ここが我が家だよ。ちょっと荷物の搬入、手伝ってね」


 彼は両手をパンパンと叩く。掌に滲んだ汗がキラキラと光を反射していた。

 僕より先んじてグッズが飛び降り、荷車が跳ねるようにして、車体が持ち上がる。僕は少し遠くなった地面に慎重に足を伸ばし、爪先で体重を支えながらゆっくりと地面へ着地した。


 男の住まいは建物こそ古く見えるが、それなりに立派な一軒家に見える。無骨でところどころ塗装が剥げた外装だが、周りの集合住宅と比べれば天国のような空間的余裕がある。なにより、この狭い路地を抜けた位置が、絶妙に空を切り取る空間を広げており、つまり、少し開けた場所がそこに存在するお陰で、建物の玄関口にはちょっとした中庭ほどの広さをした広場できている。男は荷車を扉に寄せると鍵を開け、僕達の持てなさそうな重い荷物を一人で抱え、脚で戸口を開いて中へと入っていった。僕は振り回したら危険そうな、仕事道具を詰めた鞄を両手で持ち、建物の中へと運び込む。グッズはそれに続き、小さな丸椅子やら緑の民からの贈り物やらを抱えて入ってきた。


 玄関から中へ入ると、まず狭い通路があり、そこに三つほど扉がある。一つは洗面所で、曇りガラス越しに水桶や樽が確認できる。そして、突き当りの扉が彼のリビングルームである。

 小さな机が中央にあり、そこに紙切れや何か分からないものが散らかっている。背もたれ代わりの背の低いベッドが机の背部にそっと添えられ、その上は喜ばしいことに藁ではなくシーツである。

 何より、壁一面をすっかり埋め尽くす書籍の数々。これが彼の全財産と言ってもいいくらいに、これでもかというほど大量に収められている。

 そして床面に散乱した汚らしい着替えの数々が、その生活力のなさを暗示している。


 総合的には質素な生活に見えるが、書籍という膨大な財産に投資できるほどに稼ぎがあり、また蒐集に投資しているという点で、現在の手持ちの財産はほぼないと見える。僕は少し残念に思った反面、強烈なシンパシーに静かな興奮を覚えた。


 グッズは荷物を置くと真っ先にベッドに飛び乗って、無遠慮にその上で飛び跳ね始める。まぁアイテスが同室にいなかったらどうなっているかという、育ちが透けて見えるようだ。


 僕は荷物を丁寧に部屋の脇に置き、あたりを見回した。


 少し残念に思ったのが、書籍のほとんどが娯楽小説であったことだ。つまり、僕の関心を満たすものは恐らく少ないだろうという所見である。

 とはいえ、この膨大な活字の山は、彼が知識人であることの紛れもない証左であり、それがきわめて稀有な黒の民の引き受け手であることを暗に示してもいた。


「あの・・・。壁・・・」

「ん?あー、好きなの読んでもいいよ。ただ、汚さないようにね」


 男がそう言いながら、タイやボタンを解く。露わになった鎖骨は貧弱な体の中で一等立派で目立って見えた。


 僕は手始めに小説を手に取る。古い冒険小説で、外の世界に関することが書かれているかと思われた。


「ん。それはねー。いい趣味してるよ。施設建設前の世界周遊の冒険小説だ。怪物も出る」

「怪物?」


 僕らにとっては生きている兎も鶏も犬も珍妙な怪物だが。男は興奮した様子で、全身を使って表現を試みた。


「そう、火を吹くドラゴンや、海をすっぽり埋めるような巨大な毒蛇!それに人の背丈ほどもあるトンボ!」

「トンボ!」


 グッズがベッドから身を乗り出す。なぜトンボに反応した。


「では、架空の話ではないですか・・・?」


 資料にはなりそうにないな、そう思って本棚に戻そうとした時、男は自慢げに答える。


「ところが、実在の人物が語って聞かせた話が元なんだなー」

「ほら話ですよ」

「怪物は現地での危険の象徴としての表現だよ。だから、その時どうやって解決したのかが、彼の世界周遊での実際の解決策なんだ」


 「かっこよく機転を利かせて!」などと言ってポーズを取り、興奮気味に話す男。僕はそれを冷ややかに見つめ、てきとうにページを開いてみた。


・・・高温と低音が襲い掛かる砂漠のシーン。筆者はこれを火を吹くドラゴンの怪物に準えている。なるほど、と、納得してしまったが、気温の高低差をドラゴンの火や冷気のブレスに見立てて、それを防ぐ術として、体をすっぽりと隠す、薄手の民族衣装を身に纏ったということのようだ。夜を凌ぐために分厚い家の壁と焚火は欠かせないなど、身に迫った恐怖の擬人化が怪物、ということらしい。


意外と面白そうだな。


「人間は身に迫った脅威や教訓を、おとぎ話のような空想の話として残すことがあります。これはそういった類の作品ですね」

「そうそう、だから参考になると思うな」


 生活の参考にはならないと思うが、文学的な脚色や飛躍についての良い資料ではある。

 別の本を手に取ると、すかさず男が興奮気味に本の解説をし始める。悪意はないのだろうがちょっと鬱陶しさはある。

 とはいえ、悪い環境ではなさそうだ。ぐるりと壁を覆う書棚を見回しながらそう思った。


 僕が書籍全体に視線を動かしたところで、男は何か思い出したようにびくりと飛び上がる。何事かと首を傾げていると、男は興奮した時のがに股のまま、自分を指差して答えた。


「自己紹介してなかったね。僕の名前はマーク。マークと言います。町医者で、科学者で、空想探検家です。よろしく」


 胡散臭ぇ~~~~。

「よろしく、マークおじさん!」

 グッズの無邪気な声。それが嬉しくてたまらないのか、マークは彼の頬をむにむにと構いながら、「よろしくぅ~」と戯れはじめた。


 とはいえ、他に身を置く場所もないのが事実である。僕は気晴らしに小説を手に取り、読み始めた。


「あ、それ、は・・・」


 僕は目が滑る文字列から視線を外して、世界の方へと逃避した。

 官能小説を一緒くたに置くんじゃない。


 男は慌てて僕の手から小説を取り上げ、先ほどよりはるかに汗だくになりながら、「それは早い、早いよ」と小説を棚に戻した。僕はしばらく放心したまま天井を仰いでいた。


 男が焦って食事の支度をはじめたので、僕はそれについて行く。身についた習慣の自然な恐ろしさである。

 とはいえ、一日目にしては、充実した成果と言えるのではないだろうか。


※7聖色・・・祈り石の色を指す白の民の中での俗語。特に綺麗な空の色などに用い、青色や水色などよりも神聖な雰囲気を纏って見える場合に用いる。

※8 できもの・・・ここでは、ノゼンダがにきびとたこを区別できていないために一括りの症状として描写している。実際には、市民はそれらをきちんと区別できている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ