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ロザリオの掩祝  作者: 民間人。
第二玄義:追従

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第二玄義:追従4

 外へ出ると、中庭の木が心地よい葉擦れの音を立てて、気持ちよさげに風を受けていた。背の低い雑草などもざらざらと音を立てて、とても賑やかしい様子である。

 ホロは虫などを踏まないように周りに気を配りながら、程よい背のある雑草が生い茂っているところに座った。


 風のそよぎが心を穏やかにする。ホロは気を取り直して昼食を開く。忌まわしい赤や茶の色が無い、目にも鮮やかな緑と、鯵と、白いパンを入れた弁当箱を開いた。それはもう喜ばしい献立であったが、彼女が気懸りに思ったのはアイテスのことである。彼は、普段もまた賢く的を射た返答をする子であったが、はきはきと話す子でもあった。今日のどこか沈んだ様子は何であったのか。今朝から続く違和感に、彼女はいっそう心配を募らせる。


 そのため、青魚の豊かな脂のことや、緑の野菜の程よい歯ごたえなどには、あまり関心がいかなかった。普段よりも自然と咀嚼も嚥下も早くなる。


 弁当箱に運んだ手が空気を掴んだとき、彼女は日時計を取り出し、日照の高さを目視で測りながら、「あと20分・・・」と、ぽつりと呟いた。それは普段より10分ほど早い完食であった。彼女はふっ、と息をこぼすと、講義室へと向かった。


 ホロが講義室の自分の席へと戻ると、講義室で語らう御子達は、窓際の特等席に集まってリラックスした様子である。ただ、中央の席で仲間達を集めるアイテスの席が空いており、それを囲むように、沈んだ表情の友人たちがいた。

 その中には、殆ど泣きそうな姿のグッズの姿がある。彼のみたことのない表情を見て、ホロは大きく動揺する。衝動的に彼の名前を呼ぶと、目を真っ赤にし、瞳から涙をぼろぼろと流したグッズがホロを見た。


「・・・ど、どうしたの?グッズ」

「アイテス、怒ってどっか行っちゃった・・・。どうしよう、俺・・・」


 瞳の揺らぎだけで激しい動揺が感じ取れる。ホロはグッズを優しく抱きしめ、軽く背中を摩りながらあやしている。


 グッズの喉元まで出かかっていた声が濁流のように溢れ出し、耳をつんざくような甲高い鳴き声が教室を包み込んだ。


 物々しい雰囲気の中、中央の席に注目が集まる。グッズとホロの関係について思うところがあるらしい御子や巫女らは、ひそひそと噂話をする。あるいは、ある御子や巫女らは心配そうに席を覗き込んでいる。アイテスの言動に動揺するばかりに硬直する者もあったらしい。


 ホロはじっとグッズを抱きしめて、耳元で激しく鼓膜を揺らす音が収まるのをじっと待った。やがて高い声が聞きづらい嗚咽に変わると、ホロはそっと頬を御髪から離し、グッズに優しく語り掛ける。


「あなたは時々アイテスくんにも迷惑をかけるでしょ。だから、これを機会にちゃんと謝りなさい。きちんと、ね。そうすれば大丈夫だから、許してくれるからね」


 事情も分からず彼に語り掛けると、グッズは再び涙を目に溜めはじめて、ホロはどうしていいのか分からずにグッズの友人に視線を送る。友人は肩を竦めるばかりで、ホロを助ける手だてがなかった。グッズは再び大声で泣き始め、御子達から幼稚さに嘲笑の眼差しを送られ始める。ホロはグッズの瞳を胸の中へと隠し、険しい眼差しへ向けてきっと睨み返す。そうした御子はきまりが悪くなって視線を外し、また、談笑に興じ始めた。


 胸元に温い息がかかるのを感じ、沈痛な面持ちで小さな頭を撫であやす。彼女はそれを不快には思わなかったが、それでも、集まる視線には少なからず思うところがあった。再び声が少し収まると、グッズの酷い顔から涙を拭ってやり、優しい声で諭す。


「大丈夫だから。あのアイテスくんだよ、簡単に嫌いにならないでしょ。グッズもそうでしょ?」

「うん、うん・・・」


 そう言って彼の背中を今一度摩ってやると、彼女は濡れた胸元をそのままにして席に戻った。グッズはしばらく鼻を鳴らして座っていたかと思うと、そこに険しい表情のアイテスが戻ってくる。暗い影を重ねたアイテスに、グッズが無配慮に駆け寄ると、彼は隠し切れないものを普段通りの表情で隠しながら、アイテスに話しかけている。アイテスは眉間に依った皺を少し緩めたかと思うと、普段よりは元気の無い声でグッズの誘いに応じる。ホロは、その一部始終を見守りながら、間もなく鐘が鳴るだろうベルに耳を傾けていた。


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