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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
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その鳥は風を唱える

 ガラテンの言葉を聞いた一海達がその場で硬直していたのは、相手がどう動くのか読めなかったから。

 周りに敵の気配はない。だがガラテンは呪いでウコッケへの違和感を覚えた。


 一海は思いつく限りどうなっているかを考える。


(気配はウコッケから。人を操っているのか?)


 見当もつかず、只々那由多を握る手が強くなる。

 ただ確実だと分かっていることもある。このせいで迂闊(うかつ)に動けないのだ。


(確かなのはウコッケは疑似餌だ。そしてあいつを撒き餌にしているということは、相手は疎通体だ)


 恐らく敵は獲物を多く狩ろうとしている。

 死体を欲している。


 考えが纏まらなかったが、どうすればいいのかは一つ決めた。

 それは『このまま動かないこと』である。


 後手に回るのは苦しいが、攻めるのも無理矢理なら相手の出方を見るしかなかった。

 捕食植物の罠みたく、引っかかる間抜けだけ待つということは恐らくしない。

 何故なら相手は無視して通ろうとしても、全力撤退しても追いかけてくるからだ。

 それに、彼らが探してた人物を餌にされている以上撤退もできない。相手がじっとし続けない可能性があるのなら様子を見た方が良いと一海は思った。


「どうするのこれ」


「まだ何もするな。恐らく動く。警戒しろ」


「ふーん、後手後手の策で行くのね」


「悪いか?」


「いや、悪くないわ。ただ先手を打つ方法がないからそれを選んだのよね?」


 一海との会話の後、クラリネッタは背負ったカバンを下ろし荷物を漁る。

 音に気づきその方向を見た一海とミカは不思議そうな顔をした。


「……何してるんです?」


「言ってなかったよね。あたしの出来ること」


 話しながらカバンから出したのは少し高そうな小物入れ。軽快に開けると片目のみのメガネ、モノクルが中にあった。

 ルンルンと陽気に手に持ちミカにゆっくりと装着させる。それに対して彼女はされるがまま言われるがままだった。


「ミカちゃーん。あいつ何色に見えるー?」


「え、え?……赤色です」


「オッケーありがとー。じゃあ死ねぇ!」


 シスターの右手にはいつのまにか持っていた無地のソウルカード5枚。

 それを薙ぎ払う様に相手に向けて投げる。

 投げた彼女が続けて「プラスバースト!」と言うと相手の近くまで飛んだカードが光に包まれて球状の大きな衝撃波を炸裂させてウコッケを飲み込んだ。


「おいおいおい!」


「何してるんです?!」


「あらあら、勇者御一行とあろうものが魔物の肩を持つなんて」


「いやそういう……魔物?」


 言葉の意味が理解できず一海は反論を止める。

 そして自慢げにドヤ顔をするシスターが話し始めた。


「それ、リサーチモノクルっていうマギアなの。教徒が一人旅なんて厳しいからね。回復サポート何でもござれのクラリネッタです」


「これマギアなんです?!」


「よく分かんないけど、その『まぎあ』ってので魔物と分かったのか?」


「あんたもしかしてマギア知らないの?」


 地球育ちの一海は状況だけを渋々理解し、その無知さを冷ややかな目で見るシスター。そして希少性、値段の高さを知っているミカは触って良いかさえ分からず震えている。


 震えているミカが付けているモノクルを手で回収し、相手を警戒しながら言う。


「まあその通りよ。だからさっさと攻撃に備えなさい。赤色ってことは考えうる以上に最悪の状況だもの」


 ウコッケらしき姿のそれは微動だにせず、只々項垂れながら立っている。一つ違うとすれば息を一瞬だけ吸う様に小刻みに胴が揺れる。


「ケッケッケッケッケッケッケッケッケッケ」


 一海達がその揺れが笑っているものだと分かったのは、次第に聞こえる異様な声が大きくなったものが彼らの耳に届いたからだ。


「おかしいなぁ。何でバレたんだろうねぇ」


「……今ので平然としてるんだ。割の合わない仕事とかノーセンキューなんですけど」


「いやー見た目に反して痛かったよぉ。やっぱ人の体は痛いねぇ?」


 見たことのある人間の体が、普段しない様なポーズを違う種類で連続に。一部分が急激に膨張するのが続けて起こる。

 ウコッケの服装は上半身は肌が多く見える様な構造だが、変形が起こるたびに黒と白の毛が伸びてくるのも遠目でわかる様になる。

 皮膚や生えた毛の内側からローブも浮かび出て、顔も口が突出し(くちばし)に変わり、最終的には鷹とコウテイペンギンを足して割った顔つきになる。

 手と足は完全に鳥みたく寒イボが出してしまいそうな程生々しい三本指の二足歩行に変身した。


 どうやら状況は一海の想像以上に最悪な展開を迎えているそうだ。ガラテン以外の三人は唾を飲む。


「どうも皆さぁん。ご機嫌は如何かなあ?」


「化けてやがったか」


 そして鳥の化け物は片手を伸ばす。


「良いところではございますがぁ、早速眠ってくださぁい。[ウィル]!」


 手から放たれるは透明の旋風。本来一陣の風しか放たれないかまいたちは範囲と風速と個数を増やし直線の暴風として脅威が迫る。


「?! ガラテンの後ろに!!」


 言葉を聞いて命令に従ったのはミカ。クラリネッタはすぐ横に疾走し緊急回避する。風魔法は元騎士団長に直撃し物事は経過する。当たった風は物理法則の通りに着弾箇所(ちゃくだんかしょ)から後方は障害物に沿って風が抜ける為二人には強風が通り過ぎる程しか体は味わうことはなかった。


「ちょっと何やって!……ええ?!」


「何ぃ? 吹き飛ばないぃ?!」


 驚いたのはシスターと化け物。それもそうだ。風魔法は攻撃の内容によっては打撃としても斬撃としても有能な魔法だ。初級魔法としてはあり得ないほどの威力なのにかすり傷も付かずで吹き飛ばされもしていないのは逆に異常事態だ。


(何? 風魔法に抗力でもあるの?!)


 味方の情報を確認し、敵を見たシスターは、自分にヘイトが向いてないことを理解し鞄を漁った。

 取り出したのは先がフックになってる鎖。


「ケッケッケッケッケ!……予想外ですがぁ、断唱するべきじゃなかったみたいですねぇ。なら力比べと行きましょうかぁ! 疾風一斬疾風一斬疾風一ザァン!!」


 初級風魔法の詠唱を複数回早口で吐き捨て、伸ばした手からもう一度発動しようとする。


『うわぁ!』


「[ウィル]!!」


 発動の直前一海とミカの体に巻きついた鎖が凄まじい力で引っ張った。

 鎖で引っ張られている一海とミカは小岩に隠れているクラリネッタの元に向かい飛んでいく


 そして直後、鳥類の放った魔法は先程よりも高出力ででるせいか、あまりの強さに光線の様に直線に走るその範囲外まで暴風で包まれる。

 間一髪で攻撃から逃れた一海達は最後に地面を滑りシスターの元で


「あんたらよく無事ね」

 

「いだだ……無事に見えるか?」


 鎖は勝手にシュルシュルと解け二人は拘束から解放され、そしてそそくさと岩陰に隠れた。


「あれ食らってたらとんでもないわよ」


「……あれ、ガラテンは?」


「引っ張ってない」


『……ええ?!』


 一海とミカは驚嘆しクラリネッタに詰め寄った。


「攻撃を受けさせたのか?!」


「耐えれそうだと思ったから囮になってもらったけど、あれは流石にヤバいわね……」


 そして岩陰から覗いて彼女は確認する。

 目に映ったのはかすり傷一つ付いていない、腕を組んで動きすらしなかった大男の立ち姿。目に入った光景にクラリネッタは動揺する。

そして戦闘へ……


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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