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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
48/53

爛れた関係と魔物の臭い

 ※初見用用語解説

メレオニダス:ギアの街に隣接するビギン草原にて襲撃してきたカメレオンの魔物。疎通体。死に際に魔王の名前を口に出した。

 街の入口。荒野側の門前で大きく伸びをして一呼吸。

 緊張する頼まれ事をこなす為に芯を入れるように。スイッチが入る様に指を組み上に上げた。


 あの日、メレオニダスというカメレオンと戦った日は奇襲に近い状態で戦った事もあり覚悟だのそんなものを持たずに事を対処したが、今回は流れによって起こるものじゃなく自らの首を突っ込んで物事に取り組む。

 それだけで心も体も少し強張ってしまう。


 今まで自ずと戦地に向かうなどしたことなどないからか。そもそも何度もそんな事をした人間でさえ怖いと思うのかなど俺には分からない。

 だが一つだけ変わらないのは他の命を背負って命を懸ける事の重さだけだった。


「気合十分だなブラザー」


 左隣から声をかけて来たガラテンはきっと緊張する俺を気遣ってくれたものだ。


「すまない。十分過ぎて余裕ないわ」


「ハッハッハ。大丈夫だ。命懸けで平気な奴なんて狂った奴だけさ」


 俺の精一杯の返しに高笑いを決める大男。


「ま、戦い慣れせずによく耐えてるよお前は。……それに、ヤバかったら俺を捨てろ。お前らが生きてりゃどうにかなる」


 その一言でなんと言うべきか。少し嫌な気持ちになった。


「はあ……。俺もかなりのお人好しだが、お前も中々の捨て身っぷりで生き辛そうだな。くたばる時は白黒つける時だ。逃げる時は全員で。二度と自分を軽く扱うな」


「……悪い。しけた話をしちまったな」


 少し感慨深そうに目を瞑って笑う。


「ガラテン、そこは『お前に言われたくない』って言い返す所ですよ」


「……ミカ」


 右隣から飛んできた彼女の野次に返す言葉が見つからなかった。

 

「誰もやりたがらない事に自分から突っ込んでいくのは自分を捨てるのと一緒ですよ」


「ご、ごめん」


「まあ、今回は人の命が関わってるので私も頑張りますけどね」


 その言葉を仕方なさそうに言った彼女は何処となく笑顔で、きっと人の事を言えない感情がミカにもあるのだろうと感じた。


「まあ、あたしは自分の命第一なんで早急に逃げるけどね!」


「ターーーイムタイムタイムタイム」


 ミカの右隣から話に入って来たクラリネッタの言葉にツッコミを入れざるを得なかった自分。


「アナタ、イラナイ、カエレ!」


 しっかりと両手の人差し指で相手を指し、バツを作り、元の街の方向にジェスチャーをして強調しながら伝えた。


「酷くない?! 折角助けてあげようと思ったのに!」


 いーやこいつの事だ。絶対金目当てに決まってる。


「で、本音は?」


「この街の司祭から押し付けられたけど治療費ふんだくる為に受けました」


『帰れ!』


 満場一致の答えだった。


「あたし……あたしカネ……人を救う為に頑張ろうとしたのに!」


「人の事金にしか見えてねえだろ」


 くそ、何故このシスターとまだ絡まなきゃいけないのか……もっと別の教徒の人は居なかったのか?


「ああそう! いいもん別に! 向かった先で治療できる人間必要だろうに。そんなチンケなパーティでお旅になられるんですね!」


「うるせえなあ。お前連れて行くなら他の司祭に声かけて……」


 ……待てよ。

 彼女が押し付けられたのは何だ?

 金の為に乗り気でとは言っていたがそもそもこの街の司祭達は何を嫌がったんだ?

 ……おいまさか。と思いながらゆっくりクラリの方に振り返ると彼女は悪魔の笑みを浮かべてた。


「フッフッフ。気付いた様ね。世知辛い世の中ねえ。やっぱり人間自分が大事で嫌いな奴は嫌いなのよ。嫌いな奴に嫌な業務を押し付けれたら最高だと思わない?」


「おおおおおお前まままさか?!」


「そう、嫌がったのは危険な地への遠征。それを同業が一番嫌いなクラリネッタ・ヴィトーが代わりに行ってくれるんだから一石二鳥。悲しいわねえ。危険な事を嫌がる信徒より、金にガメツイ銭ゲバシスターの方が快く受けてくれるだなんて?!」


 顎が外れそうなトンチの連続にふざけるなと言いたくなったが納得するしかなかった。彼女が『快く受けている』以上、他の教徒が代わりに受ける理由がない。

 もし俺たちがごねたとしても、きっと彼らの提示する案は、「彼女は心身深い良い人なのですよ」と俺達にゴリ押しで説き伏せるだけなのだ。


「……やっぱ浮きますよね、その思想」


「あたしはねミカちゃん。神なんていつ助けてくれるか分からない気まぐれが、世界を守ると信じるクソ共が嫌いなだけよ」


「ぶっ飛び過ぎててどこから問題なのかも分からん」


 ミカとクラリとガラテンのやり取りはコミカルながらもしっかりと問題は問題として残っていた事に頭を抱えるしかなかった。

 長く考えた後、その結末にしかならないと理解した時に答えを一つ出した。


「クラリネッタさん……」


 涙を流し唇を噛みながら、


「よ"ろじぐお"ね"がいじまず」


 と挨拶をし、握手の手を伸ばすしかなかった。

 そして彼女は笑顔でそれに応え右手を差し出した。






ーーーーーー






 ポツリポツリとそびえ立つ岩の針山が見える中を進み暫く経った太陽がテッペンに登った頃。先頭を歩いていた俺の後ろからクラリネッタが声をかける。


「ねえ」


「何だ、疲れたか? 急ぎたいんだけど」


 そう、人の命が懸かってるからな。こんな所でへこたれる訳にはいかないのだ。


「いやあ……ていうか、そっくりそのままお返しするけど」


 ……俺の体が壊れてでも。


「イヤ、全然。だいジョビダ。まだ歩ケルシ俺」


 かなり強がったが、正直な所これでもまだ気楽に歩けている方なのである。体は馴染んではいるものの、心が長距離の移動に慣れていないらしい。

 ビックリした。体力は増えても身体に馴染みがないと耐えられないのだとこの身を持って知った。今度から歩く量を増やす事にしよう。


「でも確かに、結構探しましたもんね。ちょっとだけ休みます?」


「どうやら、ミカも疲れたみたいだ。一旦休憩しよう」


「が、ガラテン。私はまだだいジョビでスヨ?!」


「ダメな奴と同じこと言ったからダメ」


 どうやら周りの判断で休む事になったらしい。

 良かった。少しだけ休憩しよう。


「し、仕方ないな! ちょっとだけ休んだら行くぞ!」


「一番休むべきはお前だブラザー」


 そして全員で地に座り休憩する。

 口を初めに開いたのはシスターからだった


「……意外とあんたが箱庭育ちなのね。ていうかテント暮らしなのに体力つかないってある?」


「知ってるんだな。こいつらが野宿な事」


 そうか、ガラテンは知らないのだ。あの騒動の前、俺達が騙されかけたのはテントでの出来事だと言う事を。


「そもそも、俺らが詐欺に引っかかりかけたのがこいつを休憩させたのがきっかけなんだよ」


「ああそういう」


「にしても付き合ってるならしっかり鍛えなさい。情けないわよ」


 ……付き合ってる?

 誰が?


「……え?」


「えって。ミカちゃんに決まってるでしょ」


『……え?!』


 シスターの一言に驚愕する俺たち三人。


 何……だと……

 ミカに男の噂なんて聞いたことがない!


「そうなのかミカ?!」


「誰だ。レフェリーか? レフェリー・バークか?!」


 これにはガラテンも驚き詰め寄る。

 俺も頭の中はレフェリーの可能性しかないので聞かざるを得なかった。


「いや居ませんし何故レフェリーです?!」


「アントンはナナミさんがいるからだしガラテンも驚いてるからないんだよ! 他はレフェリーくらいだ。ていうか知らん男の方が許せないけど?!」


「お兄ちゃんか!」


「待てあんたら!!」


 俺たちのゴシップネタにストップをかけたのはシスター。そもそも俺たちの騒動に一言物申したい様だ。


「お前と、お前!」


 指で指したのは俺とミカだった。

 暫くして察した俺とガラテンは気まずそうに話す。


「……シスター。俺たち違うんだよ」


「隠す意味ないわよ。テントで二人なんてそんな関係しか」


「それがな、本当にそうなんだよ。俺が知ってる」


 乾いた風が静寂を埋める。理解できないのかクラリネッタは硬直したままだ。そしてドン引きする。


「あんたら(ただ)れてる!」


「お前に言われたくねえ!!」


「何なら俺が指示した」


「爛れてるぅ!!」


 銭ゲバシスターに青ざめられる程引かれているが困った事にそれは正論なのである。

 それよりガラテンは何故いらぬ情報までレイズしたのかが分かっていない。まあ奴は面白いと思った方向に話を持っていく趣向があるからそれのせいだろうが。


「ガラテン黙れ! ややこしくなる!」


「でも一番嫌なのはミカちゃんが満更でもない事!」


「こここれには、海より高く山より低い事情があるんです!」


「大したこと無さそうね!! 高低差逆なのよ!!」


 不毛な言い合いをしてしまい、小さな波乱になってしまう。


 ……そんな波乱に終止符が打たれたのは、一つの影が荒野を彷徨うのを俺が見つけてしまったからである。


「……何だあれ」


「ちょっと、話を逸らす……何あれ」


 まだ話を盛り上げたがったシスターでさえ言葉を止め警戒した。


 その影は段々とこちらに近づき、そしてその人物は何処かで見たことのある人物だと理解できるようになってガラテンが声を出した。


「ウコッケ?!」


 大男は走る。それについて行く様に俺たちも後を追う。

 必死に追いかけていたが、目の前のガラテンは急に足を止めその場に止まる。俺も何事かと思い急ブレーキをかけて状況を確認した。


「どうした?!」


「お前の訓練、やってて良かったよ」


「……何が?」


「魔物の臭い。あいつからだ」


 じっと見るのはウコッケの顔。それを険しい顔で眺めていた。

ウコッケは敵……?


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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