恨みでじゃなく、辛みでじゃなく
※初見用用語解説
疎通体:人の言葉を使う魔物。本来は特例型と呼ばれる数十年に一度程しか現れない怪物の内の一つなのだが、ここ最近このタイプの魔物が多く現れている
「ちぃ、バレたか?!」
俺の言葉に勘づいて足を早めるツーブロック。
しかしそのまま逃亡できず、相手は唸り声を上げ蹲る事になった。
「無理するな! 何もしないって!!」
肩に担いだロン毛を代わりに抱え、そのまま木の壁にもたれさせた。
「おいおい何やってるんだ……ってお前ら?!」
「ええ、ウコッケの仲間?!」
慌てて駆け寄ってきたガラテンとミカ。状況に気づき驚く。
「ああ、捕まえると勘違いしたらしい」
「勘違いって……捕らえないんです?」
「この状態だからな」
これだけの傷だ。突き出すにしてもある程度回復しないとつれても行けないしな。
「……おい」
腹を抑えながらツーブロックが声をかける。
「どうして……捕まえねえ」
「アホか。多分逃げたんじゃないだろ? 逃げるなら無茶してでもここには来ない。それに聞きたいこともあるんだよ」
こいつらはレクサンデル領で目をつけられている。更に拠点にしているギアの街で捕まったから経由したここに戻るなんて惨めな逃げ方はしない筈だ。
それにこれだけじゃない。そんな事情抜きにしても聞き出したい情報が俺にはある。
「すみません。こちらです教徒さま」
「分かりました」
背後から帰ってきたであろう女店主と教徒という言葉から教会側の治療人が来たと思われる。その人も女性の声だった。
「では治療に取り掛かります。皆さん下がってください。後は私が……ゲッ?!」
突如切れた女性の威勢が途切れたのに気付き後ろを確認した。
「なっ……」
……まあ何と驚いたことでしょうか。そこにいたのはみめ麗しい黒のスリットの入ったシスター服を着た金髪のシスター。
容姿しか誉めようのない中身が黒より真っ黒などぐざれ銭ゲバシスターことクラリネッタ・ヴィトーがぎこちない表情で固まっていた。
「クラリネッタまで?!」
「また嫌な出会い方したなあ」
「それあたしの感想なんですけど。……まあ良いわ。ちょうどあんたらと出会えたし代金の1400払ってもらうわよ」
『1400?!』
ちょっと待て、いくら重篤患者だとはいえそれでも一人500E程のはずだ。400上乗せはぼったくりだ。あまりの値段に味方のガラテンもミカも仰天だ。
「いくら何でもぼったくりです!」
「あらそう? 緊急手当外部治療あたしの気ままなプライベートを割いての稼働。妥当だと思うけどね」
「おまけに何で俺たちだよ! 人の命かかってんだぞ?!」
当然の疑問を投げかけると、大きくため息を吐いて反論した。
「それに……そいつらきっと素寒貧よね? 金の切れ目は命の切れ目。金のない時に怪我をしたそいつらの責任よ」
「……ふざけてるのか?」
「ふざけてるのはどっちよ。あたしはあたしの仕事を全うするだけ。慈善活動の偽善するあんたと、ニヤリと笑う商売人。あんたらが関わらなかったら安く済んだのにね」
くそ、腹の立つ価値観だ。欲に忠実で無垢。
外道の発言なのに肝心な所だけはしっかり抑えてきやがる。
実際、こんな状況なんて金が発生したっておかしくない。ドラマなどじゃ救助しても謝礼を受け取るシーンなんてあまりない。仮に本当は払っていても人情で受け取らないような話が多いだろう。
だがこいつには人情がない。
悪魔と差し障りのない感性のこいつにそんなのが期待できるわけがない。その中で助けてもらうなどするならやはり金を払うしかない。
「そんな屁理屈ふざけてます。それで助けないなんて……」
ミカの反論を左手で静止し、質問をする。
「……二人合わせて1400だよな?」
「ええ、もちろんよ。あたしシスター業務に関しては嘘はつかないもの。高くは付くけどね」
……その言葉嘘にしか聞こえねえよ。
だが今はそうしなきゃ人が死ぬ。そんなの気分が悪すぎる。
「分かった」
「……マジか」
「正気です?!」
仲間達は驚く。
「ただし、今の約束を守らなかったり治療が成功しなきゃ払わないぞ」
「あら、甘く見られたものね。なら安心しなさい」
そう言うと彼女はさっと取り巻きの前まで歩き屈んでそれぞれの患部に両手を当てた。
「あたし金がかかると失敗しないの」
そして光る手。治癒が始まると同時に上がるゴロツキ共の声。只々その成功を祈り眺めるしかない。
光景を眺めながら暫くの事。彼らの喚き声が段々と収まっていき、ロン毛が安らかに眠りにつくと彼女の発していた両手の光は消え、大きくふぅとため息をついて額の汗を手で拭った。
「これで一命は取り留めたわ。お代は後でいいわ。あんたらならまたご縁があるでしょうし」
「……すまねぇ。本当にすまねえ」
感極まってツーブロックが号泣する。そして俺たちも安堵した。
「良かったです。助かったみたいで」
「……ああ」
そしてこの日のトラブルは解決した。
……そうなれば良かったのだが。
「……ありがとなガラテン達。この恩はどっかで返すから」
するとツーブロックは壁に手をつきながら立ち上がる。治療したての体に鞭を振るい宿から去ろうとする。
それにガラテンとクラリネッタが体を動かして止めようとした。
「待て待て待て! あんたも酷かったのに動けるわけないでしょ?!」
「そうだ! まず休め。無理をするな」
それでも取り巻きは体を止めようとしない。意地でも動こうとして仕方ない。
「ダメなんだ。早く……早く、行かねえと……」
「あたし、二番目に嫌いなの折角助けたのに死にたがるバカなんですけど! さっさと休め!」
「駄目なんだぁ!」
俺には何となく想像がついていた。この状況が起こった時の違和感がその答えだ。三つのうちの欠けた1ピース。そしてそれにガラテンも気づくことになるだろう。
「頼む。行かせてくれ……兄貴を助けねえといけないんだ……!」
その言葉を聞いたガラテンははっとする。
「……おい。そういえばウコッケはどうしたんだ?!」
「俺たちを逃して……変な魔物と戦ってんだ……早く行かねえと!」
その事実にガラテンとミカは驚きを
「待て。その前に教えてくれ」
この一大事に絶対に聞かなければならないこと。
それは勿論その魔物は人の言葉を話したかどうかだ。
抑えられた取り巻きは俺の言葉を聞き暴れさせていた体を止める。聞いてくれる姿勢になってくれたようだ。
「多分その魔物、人語を話すだろ?」
「……どうしてそれを」
やっぱりか。だとするとこの騒動、ただのモンスターの襲撃で収まる訳がない。
「お前の言葉で嫌な予感がした。昔からそういう直感だけは凄くてさ。俺の分かる中で最悪なのは疎通体の襲撃だけだ。怪我しても戦うような敵じゃない」
「疎通体……兄貴の言ったのと同じ」
あの日俺やガラテン達にとった横柄な感じはなく、余裕のないまま男は考える。そして口を開いた。
「馬車で運ばれる中襲われたんだ。ローブを羽織った二足で歩く鳥に襲われて……偶々逃げた俺らは生きた。けどウコッケの兄貴が囮になって」
話す事を止め、抵抗していた体も何かを思ったのか力が抜けていた。そしてツーブロックは振り返り地面に手をついて頭の高い土下座のような形でまた話を始めた。
「許されねえのも分かる。でももう頼むならあんたらしかいないんだ……兄貴を……ウコッケの兄貴を助けてくれねえか?! 俺らの事どうしてくれたって構わねえから!!」
支えていた腕は折れ曲がり肘で支えるようになり額まで床に付けて蹲るように「頼む……頼む……」と壊れたロボの如く同じ言葉を繰り返す。
「許す訳がない」
そう切り伏せると男は繰り返した言葉が止まり黙り込む。
こいつは勘違いしている。ガラテンに対してしたことは許されるものじゃない。
しかしだ、された恨みがあるから助けないと必ずしもイコールする訳じゃない。
恨みでじゃなく、辛みでじゃなく、それで解決できない何かで決めなきゃいけない。そうじゃなきゃ、俺の心の何かが死んでしまうかもしれないから。
「でも助ける」
「……え?」
「……んあ?」
ツーブロは顔を上げクラリネッタは俺の発言を理解が出来ず不快な顔をした。
「お前の都合とか関係ないんだよ。魔物は倒すからな。そのついでに助けてやるって言ってんの」
「……え、バカなの?」
「ハハッ、まあそうだな。バカなんだよあいつ。おい一海、俺の気分無視して話進めるな」
歩みながら放つガラテンの言葉を聞いてハッとする。流れで決めてしまったがこいつが嫌だと進まない事に気づく。
「す、すまん……」
「まあいいさ。何か思ったんだろ? だったら許すしかないよなあ。お陰で仲間に会えたしな」
取り巻きが小さくガラテンの名を呟く。
「一海は本当にお人好しですね」
「ミカも嫌か?」
近寄るミカが意地悪そうに笑って返答する
「私がそれで助けられたのに、止める意味あります?」
「……決まりだな。念押しするが、ついでだからな。お前の為にやるんじゃないぞ」
「すまねえ……すまねえ……!」
男は伏せて顔を隠し泣き喚く。
そんな一連のやり取りを横目に見ているクラリネッタが視界に入った時、仏頂面でバカみたいと吐き捨てたのが耳に入った。
依頼受諾「兄貴を助けてくれ」
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