それは荒くれ者との邂逅
※初見用用語解説
型式:依頼の型式。型は難度、式は緊急性を表す。例えば、小型の依頼が馬車で伝わったら小型馬伝式と管略される。
漏魔、魔漏:魔法使いの天才病と呼ばれる滅多に見ない症状。心理的起因で寝てる間に精製した過剰な魔力を放ってしまう行為。ミカが悩んでいる。
その街は、ビギン草原とツノの荒地の境目にある、関所との中継地点として存在する小さな街。名はサリア。
ギアの街の建物が石レンガの上から塗り壁と綺麗に立てられているのに対し、この町の建物は少しばかり木の柱が多めに見える形で建設されている。
建築の話は詳しく分からないが、恐らく前者の方が資金はかかると思われる。というか個人的にはそう言ったイメージが強いと訂正しておこう。
馬車から降り、街に到着して眺めたその景観を見た時俺とミカは小さな声で感嘆した。
「ギアの街の方がすごいと思うがな」
「その。何と言いますか」
「他の街とか見る機会がなくてさ、俺も」
ミカはきっと漏魔の関係で長らくギアの街以外寄れたことがないから。俺はそもそも地球からこっちに来たせいで王都とギアの街しか知らないから。
今まで一つの街を起点にして動いていたから別の街を見るのは少し新鮮だった。
「はっは。まあそれならブラつきながら依頼人の元に行くか!」
「良いのか?」
「ああ、他伝の採取依頼だし焦るもない」
今回受ける依頼の内容は他伝の補助型。
依頼の緊急性は他伝が低めとは覚えているが、どれくらい急ぐべきか分からないが、ガラテンが言うならそうなのだろう。
「そうか……じゃあ宿に寄りたい。二部屋借りるから早い方がいい」
「よし、分かった。じゃあ……」
「ちょっと待ってください」
ミカから声が聞こえ俺とガラテンは声の方向に視線を向けた。
「……宿って?」
「宿は……宿だ」
「泊まるってなんです?」
「テントなしで野宿も酷だろ?」
彼女はにこやかな笑顔で質問し、俺はそれにいい感じに答える。それを二回ほど行う。
しばらく彼女はいい感じの笑顔だったが沈黙が続くにつれ片側の口角が上がり次第に冷や汗がちらほら流れたのが目に見えて分かる。
とある事情を知ってる俺にはミカの次の行動が手に取るように分かっていた。
彼女はギコちなく乗ってきた馬車へ振り返り、そして、
「すみませーん、ギアの街まで」
「逃さんぞ」
今出せる精一杯の笑顔で帰省の段取りを要求する魔法使いに対し、悪魔の様な笑顔で彼女の肩を右手で鷲掴む。
「帰して一海! 泊まるなんて聞いてません!」
「今日の晩御飯聞かれて、嫌いな野菜が出るなんて言うわけないだろ!」
「遠出するのにテントは要らないって変と思いましたよ!」
振り解こうと必死に歩みを進める彼女と死んでも話さぬ俺。
「遠出が無理な理由が君もなのをお忘れ?! 全部の最終確認だから今日だけでも頑張ってくれ!」
杖で殴ってくる様子が見えて、すかさず左手で受け止める。拍子で右手から肩が逃げるがなんとかその先の手を捕まえる。
しまいには喧嘩の拮抗状態みたく掴み合って睨み合う。
スライムを殴り続けた甲斐があってかそれ以外の要因があるのか知らないが意外にも力が強い。少なくとも、地球のガタイの良いフィジカル野郎共と力比べで負けないくらいには強い。適応魔法で強化されていなければ軽く負けているレベルだ。
正直力の強さといい足の速さといい、魔法使いより戦士の方が向いているのではと思ってしまうほど身体能力は良い。
とまあこの様に、彼女にはしっかりとした寝床にトラウマがある。勿論漏魔が原因だ。
普通は環境が整えば整う程安心できる。だが彼女にとっては不安にしかならない。天才の悩みというもので傷つけてしまった証拠でもあるので、本当に申し訳ないとも思う。
ただそうも言ってられない。ここで頑張ってもらわねば本当に自分達は大海を知らずに終えてしまうかもしれない。何としてでも耐えてもらわねば。
こうして言い合い睨み合いを繰り返す中終わりは近くなる。
「無理です! それにギアの街じゃダメなんです?! わざわざここで泊まる意味ないですよね!」
「選べじゃあ! ここでミスるか基盤の街でスプラッシュマジシャンと呼ばれるのどっちが良いかを!!」
どうやらこの最後の問答が決め手となり彼女は半分涙を浮かべ悶々とする。
しばらくの沈黙の後、手の力を解除して、「ここで泊まります」と呟いた。
例え力は並みの自分でも、口の達者具合はこちらが上。ペンは拳よりも強し。見事なクリティカルブローのフローをシナプスに直撃させて説き伏せた。
『ーーーー外道ね』
「……最低だ」
俺は動じない。例え存在する声と存在しない声から横槍を入れられても動揺をグッと堪え呑み込んだ。
ーーーーーー
バンダナをした宿の女店主が鍵を二つ分木のカウンターに置いたのを見て、俺は手に取る。
「すみません。色々言っちゃって」
「良いよ別に。わざわざ荒地側で二部屋も借りてくれたんだから」
店主がそう言った理由は片方の部屋のものをもう一部屋の方に移させて欲しいというお願いをしたからだ。宿の物を極力壊さないようにそういった願いをしたからだ。
「それじゃあ、ごゆっくり!」
元気な言葉を締めに会話を終える。
木造の床を軋ませながら待っていたミカとガラテンに歩み寄る。
「お待たせ。しっかり二部屋隣同士で借りれたよ」
「ほ、本当に、大丈夫なんです? 凄く燃えやすそうですけど大丈夫です?」
心配そうに何度も聞くミカに思わず苦笑い。
気持ちは分かるけどもう少しだけ安心して欲しいものだ。
「大丈夫だ。水魔法覚えてからアレは一回も出てないだろ? それに万が一出ても俺たちも謝るし」
「だから安心しろミカ」
「ああ、それに金の問題があっても何とかする。……ガラテンが!」
「ハッハッハ! その冗談はキツいぞブラザー!」
冗談だと言いたいがもし、仮にもしものことなんだが、この計画が最悪な失敗をした場合は真面目に払ってもらう事になるかもしれないのは口にできず俺も高笑った。
「……分かりました。絶対、絶対見捨てないでくださいね!」
「当たり前だ」
「仲間だから当然よ!」
彼女への回答は笑顔で即答する事を俺たち兄弟は分かっている。
「すまねえ! ちょっと……広間を、貸してくれ!」
大声が聞こえたのは入口から。
その光景を見るとイカつい格好の二人組の男。
一人がもう一人の男の肩を担いで傷まみれ血まみれで佇んでいる。そしてのっそのっそと女店主まで近寄った。
「?!……あんたらどうしたんだいその格好!!」
「変な魔物に襲われたんだよ! 治療できる人を探してくれねえか?!」
「分かった。直ぐ呼んでくるから待ってて!」
そう言うとカウンターから飛び出して宿を走り出ていった。
男は安堵すると担いだ男を壁にもたれさせ、自分も座った。
「……変な魔物か」
このタイミングでまた嫌な話を聞いた。
ここは荒地側の宿屋で出口からも近い。それで駆け込んできたということはそっち側に現れた可能性が高い。採集が困難かもしれないということだ。
ふとその男が俺と目があった。
そしてその様相は次第に恐ろしい何かに気付いたかの様に恐怖を覚え、もう一度男を担ぎゆっくりと立った。そして何ということか、向かったのは出口の方向だ。それには自分も心配で思わず体を動かしてしまう。
「おいおいおい大丈夫なのかよ?!」
「黙れ! こんな所で捕まれねえよ!」
振り解いた本人のその声が頭に引っかかった。
何だろう。何処かで聞いたことがあると。
そしてその引っかかりは髪型を見て思い出す事になる。
「……ツーブロック」
そして項垂れた男の髪型はロン毛なのが目に入るとようやく理解した。
「ウコッケの取り巻き……?」
何故彼らがここにいるのか……?
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