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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
45/53

ぶっちゃけ勇者は空の青さを夢に見る

 ※初見用用語解説

絶望病:絶望王と呼ばれる魔物がかけた呪いの魔法。対象者は魔物を前にすると発狂し、絶望し続ける力で私生活にも影響がある。とある体質のお陰でガラテンのみ生きているが、魔物を前にすると一部の力は抑えられない。


一海語録:那由多の剣のお陰で読み書き話は違和感なく出来るが、一部対応していない。特に生き物の正式名称になると機能しないので偶に話が通じず、一海語録と名付けられてしまう。

例えば、犬は分かるが芝犬は伝わらず、鳥は分かるが隼やフラミンゴはわからない。

「よお、一海!」


 ギアの街、ルイズスターバンでの出来事。

 

 俺は聞き馴染みのある声に呼ばれて席に座っている状態から振り向いた。

 そこには手を上げるアントンの姿。

 俺も「よっ」と声を出し手を上げる。


「悪ぃな。手伝ってくれてたみたいでよ」


「……ん?」


「ナナミの事だよ」


 初めは何が何やらちんぷんかんぷんだったが、ナナミのということで少し前の銭ゲバシスターマルチ事件の事だと分かった。


「あああれか。気にするな。俺らも追いかけてたからな」


「はは、そうかよ。……今日は珍しく一人なんだな」


「訳あってな。後で合流だ」


「ほー」


 そうか。俺が一人なのって珍しいと思われてたんだな。意外だ。

 ……いや、とはいえだ。


「俺的にはアントンが一人なのも珍しいぞ?」


「そうか? 討伐依頼の時はそりゃ一緒だけど、ない時はぶっちゃけバラバラ……」


「なあ」


 アントンの何気ない返答にピクリと眉を動かし静止してしまう。

 俺には一つ気になっている事がある。

 そうしてしまったからかアントンは複雑な顔で俺を睨む。


「どうした?」


「『ぶっちゃけ』って言葉流行ってるのか?」


「ああ。何なら流行らせたのは俺だ」


「お前なんだ……」


 そう、これだ。

 以前一度口にした辺りから、アントン達は勿論の事、うちの面子も使い始めた。

 何なら酒場に通う冒険者がちらほら使うのを聞くしルイズまで使い始めてる。

 気になるなという方がおかしい。


「お前が使ったのを聞いて良いなって思ってよ。使ってたら流行ったわ」


「お前が流行元か」


 どういう原理かは知らないが、以前言ったぶっちゃけという言葉がしっかりと打ち明けるを俗な感じにしたものとして翻訳されたらしい。


 ……いや、そもそも打ち明けるの意味で使ってるのか?


「というか、どんな意味か分かってるのか?」


「そんなのニュアンスで分かるぜ」


 質問してみると自慢げに親指を立てて次の言葉を放つ。


「ぶちまけるの派生だろ?」


「紙一重で物騒!! 打ち明けてくれせめて!!」


 いや、意味はほぼ一緒なんだけどさ。喧嘩で使うのがメインみたくなるからやっぱり違うよな。


「……打ち明ける、だと?」


「え、何故ショックを?」


 俺のツッコミのせいか?

 等と考えたがショックの受け方が異常だったので自分のせいか不安になった。


「くそぉ! トドメの一撃の時『ぶっちゃけろぉ!!』って決め台詞にしようと思ってたのに?!」


「使い方が物騒なんだよなあ! 意味はほぼそうだから自由で良いけど!」


 俺の言葉を聞いて両手で支えていた項垂れた体は顔から元気を取り戻し「そうかぁ!」と明るくなった。


「あ、安心しろ。流行り元はお前って言ってるからお前も使って良いぞ。一番目は俺だけど」


「とりあえずここ最近『ぶっちゃけ勇者』って呼ばれる理由は分かったわ」


 動揺しながら手元のコップを一口飲んだ。


「待たせた一海ぃ!」


 入口の方向から来たガラテンとミカを、声を聞いた後視認する。

 ガラテンの手元にはパンパンに詰まった買い物袋をいくつか抱えており、ミカは一つだけ抱えている。

 それを見ていつもの課題を済ませてくれた様だと安心する。


「おお、こりゃ凄い買い物だなあ」


「ああ、一海に頼まれてな。今回は殆どクリアしてる筈だ」


 ドサッと彼らは円卓の上に物を置く。

 そしてその品を紙袋を漁って俺は確認する。


「タオル、火のソウルカード、蝶番(ちょうつがい)と留め具、穴の開けてもらった鉄板4枚と、焼き網と食材……あ、砥石は?」


「ああ、すまん。それは聞けてなかったな……」


「いや、上出来だ。指定した条件も守ってる。悪かったな」


 そうやり取りを終えるとアントンに睨まれている事に気づいた。

 何か悪いことをしたかな?


「一海、最低だな」


「いやパシらせてないからな?!」


 ガラテンがアントンの気遣いに気づき地面に手をついて項垂れる。


「俺……ずっとパシリにされてて……!!」


「おいガラテン?! その冗談は冗談にならんぞ?!」


「すみませんアントン。これガラテンの修行なんです」


「修行? 買い物でぇ?」


 ミカがフォローしてくれるも、かなり懐疑的(かいぎてき)な目で見てくる。

 まあ無理もないよなと思いつつ説明はすることにした。


「呪いだよこいつの。それの荒治療」


 そう、これはガラテンの掛かっている絶望病。その効果に耐える練習なのだ。魔物を前にすると不自由になると分かっていても連携が少しでも取れないとどうにもできない。だから特訓させていた。


「また面白いことさせてるなあ。それで何が治るんだ?」


「この人、逃亡と他傷自傷癖は自力で改善したらしいんだよ。それが出来るなら、動けなくても指示を聞くのと話すのは出来る様になると思ってさ」


「ふーん。で、何させてるんだ?」


「スライムの攻撃に耐えながら俺の話を隣でずっと聞かせてた」


「悪魔か?」


 いや、気持ちは分かるけども。

 これが一番早いしあいつが乗り気なんだもん。


「毎日こき使われてます」


 ふざけた冗談抜かすこいつがなあ!

 そしてガラテンを睨み返す


「成程、その内容が今回の買い物ってことだな。やっぱ最低だぞ一海」


「アントォン!」


 ちょっと、いやかなり泣きたくなった。


「……なあ一海、井の中の何とかって言ってたあれはなんだ?」


 その言葉を聞いておっと思ったのは、ガラテンに念仏の様に聞かせていた頼みの中に織り交ぜた意味のない言葉。

 だがそれが聞けるレベルになってきているということは大男の症状に進展があったかもしれないという採点基準で入れた物だ。


 日本で生まれた(ことわざ)の殆どが生き物が混ざっている。この世界じゃ生物の詳しい名前は翻訳されない事から一海語録やら一海名詞だと身内に不思議がられるがそれを利用させてもらったのだ。


「俺の故郷の諺だ。『井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る』。意味はちっぽけな世界で威張ってても世界は広いって意味だ」


「……でも、良い言葉みたいな感じですけど」


 ミカが疑問に思ったのかそう聞いてきた。

 正解だ。その後の言葉は別の人が作ったからな。誰かは忘れたが。


「当たり。最後の一文は誰かが足して生まれた別の言葉。それでもその良さを一番知る人間だって意味でな」


「……良い言葉だな」


「いや、これはある意味呪いだ」


 アントンの感想を個人の解釈で否定した。

 頭の中に過るのは漫画編集になる前の自分。

 本当はイラストレーターや漫画家になりたかった自分を思い出した己が我儘(わがまま)


「夢の凄さを知る奴は、いつだって閉じこもった世界しか知らない。叶えられなきゃ青を眺めるだけの哀れな人生。夢は叶わなきゃ呪いにしかならんのだ」


 今は遥か遠き理想。魔王リベリオの討伐。

 少なくとも俺にはその野望を叶えんと足を進めなければ未来さえない。どれくらいの分母かも検討がつかない中走らされる俺にとって、今のこの言葉は呪い以外の何でもない。

 たとえ逃げて幸せを掴んだところで潰される幸福を選ぶか、それに抗い突き進むのか。

 迷っていたって結局進めるだけ進めて決断するしかない事実は、正直予想外にも出くわしたこの和気藹々(わきあいあい)とした時間がなければ耐え難いものだった。


「すまん、今のは俺の偏見だ。普通は良い言葉に思うし、実際良い言葉だ。だって、『井戸から出なきゃ夢は叶わない』からな!」


 少しピリついた空気を笑顔で和ませる。

 何となくだが、全員少し笑った気がした。


「さて、ガラテンの調子が良さそうだし、俺たちもちょっとだけ頑張るか!」


 先程使用していたコップを手に取りもう一口飲む。


「頑張るって、何をするんです?」


「勿論、遠出だよ。井戸の(へり)まで」


 ミカの質問に右手の親指で掲示板を指差し、ウインクした。


いざ井戸の縁へ!


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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