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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
41/53

CITY ESCAPE

 目の前の女は固まったまま動かない。

 しかし彼女は何かいらぬことを思いついたのか苦し紛れに、


「キャーーーーー! 助けてーーーーー!」


 と被害者が自分であると大衆に勘違いさせようとする。

 だがそれも俺からしてみれば無駄なことだった。


「無駄だぞクラリネッタ・ヴィトー。こっちには証人がいる」


「な……どうして名前を?!」


枢機卿すうききょうの指示です。大人しく観念なさい」


 俺の後方から現れたのはナナミ。

 彼女は丸めていた依頼書を広げた。



ーーーーーー



 依頼書:補助型鳥伝式(ちょうでんしき)依頼


 バカな聖職者を引っ捕らえてほしい


 特徴:金髪ブロンド、右目を隠し左横の髪を三つ編みで編んだセミミドルのシスター


 依頼詳細:とある方からの命で、上記の特徴のシスターを教会まで連れてきてほしいのだが、きっと彼女は逃げると思う。大事にしたくないがそれでも早急に捕まえてほしい。くれぐれも丁重にお願いする。



 報酬:30000E


 ~依頼者:枢機卿:ヴェル・アヴァロン



ーーーーーー



「ゲェ……わざわざ鳥伝式で頼んでる」


 依頼にはカテゴリがあるが、難しさだけで区別されるわけでもない。

 型式と呼ばれ、型で難度。式で速さだ。

 緊急性も高くなるとそれに伴って金額が高くなる。つまり速さである。

 俺の世界であった速達郵便等のイメージに近い。

 緊急性が高くなるにつれて依頼者の出費も高くなる上にそれにも段階がある。


 鳥伝式は緊急性も高く費用もなかなかする。

 こんな女を捕まえるために出すのも勿体無い話だが事情を聞いている俺からしてみれば笑えない。

 彼女の父は枢機卿。教徒の中でも役職としては上から2番目の聖職者なのだが、その中のトップで、紅の枢機卿(レッド・カーディナル)と呼ばれるほどの聖人君主なのだ。


「まさかあんたお偉いさんの娘だとはな。人間どうなるか分かんないもんだ」


 先程儲け話を聞いていた男、いや、ガラテンは席から立ち話に混ざる。


「もしかしてあんた囮?!……因みに、大聖堂に戻ったら?」


「もちろん返金と説法です」


 ナナミの説明を聞き、シスターは声を荒げながら隠すように腕を組む。


「嫌よ! こんなか弱い女子(おなご)から有金奪おうって言うの?!」


「その女子が辻斬りよろしく奪ってんだよ!」


「だからって懐に入ったお金は渡すわけもないけどね!」


 そして彼女はあの時と同じように右ポケットに手を突っ込む。


「ガラテンッ! 止めろ!」


 彼女の行動一つ一つを見逃すわけもなく、一番近いガラテンに指示する。

 言葉の意味を理解した家の仲間は早急にシスターの右手を引っ捕らえた。


 その展開に内心ホッとした。


 ……だが初めて銭ゲバシスターと対面した時と違う部分があることに気づく。


「……カード?」


 右手が掴んでいたものはロザリオではなくタロットカードのような物。だがタロットカードらしき物にしては、この世界にきてから一度は見たことのある紫を主色とした柄と、白紙の面に刻まれた魔法陣だった。


「ソウルカード?!」


 ナナミがそれに気づいた時にはクラリネッタの手の力は緩まり、カードははらりと一回転捻りながら葉っぱのごとく落ちた。

 そして誰も止めることが出来ぬまま爪先つまさきから着地する。


 カードが触れた場所を中心に緑の円陣が広がる。

 犯行現場のテーブル席から周りの座席を巻き込むまでの範囲を包み、それは突然


 風が巻き起こる。


 怯むほどの風だ。周りのテーブルはずれるほど。椅子はこけるほど。

 小物は接地面から浮き、人は身構えていなければ動けないほどの荒れ狂う風が飲食店に巻き起こる。


 風で身動きのできない合間に犯人はガラテンの手をスルリと抜けてリュックを手に持ち逃亡。

 風が止み俺たちがそれに気付いた時には彼女は数メートル走り抜けた後だった。


「……今度は手品かよ。ペテンできるものなら何でもありだな!」


「関心してる場合じゃない! 行くわよ!」


 遅れながらも全員で走り出す。

 





ーーーーーー







 昼下がりのギアの街の人並みはまばら。市にしては少なく、町にしては多いくらいの通行量。賑やかな街の声の中には石畳を勢いよく蹴る俺たちの足音が混ざる。

 ペテン師クラリネッタはアメフトのランニングバックさながら人混みを軽快に掻き分け走り抜ける。


 何とか彼女に追いつこうと走り続けるも距離が縮まりにくいほどには相手は速い。

 先程のスタートの遅れを取り戻せたもののそこから手が届きそうな距離まで詰めれるか疑問を抱くほどに間隔は狭くならない。


 ……あいつ早すぎる。盗賊の方が向いてるんじゃないか?

 なんて思いながら雑踏を駆け抜ける。


 街の一本道、交差点、建物同士の幅が人二人分程の路地裏を駆け抜け、それでもまだ追いつけない。

 路地裏を追いかけてる時に至っては身長170程の俺の身長と同じ高さの柵をジャンプで登るしパルクールの如く廃棄物や破損物を壁を蹴って超える等地球ではワイヤーアクションありきでやるような事を平然と行いやがる。

 その様相はまさしくキャッツアイ。

 見た目が教徒なだけの女怪盗である。


 俺たちもそんな芸当をされる度に周りの木箱を使って登ったり、ガラテンが斧で廃棄物を割って道を作ったりして何とか離れないようにしているが、完全に堂々巡りである。


 そんな中で一番運動経験の少ない俺がバテ始める。


「やばい……ダメかも……?!」


「ちょっとだけ頑張れ一海! もう近くだ!」


 叱咤しっせきされ前方を確認する。


 路地を抜け、開けた世界は大きな円形の大広場。敷かれた石の道の中心に四角形の公園のような草場のスペースが設置されている。


 その光景を見た瞬間、燃えかす程度の闘志が最後の足掻きとして一気に大きくなった。


「よし! じゃあ頼んだぞ!」


 クラリネッタはそのまま直進し草場を抜けようと選択する。

 一方俺たちはガラテンが左方、ナナミは中央突破。バテかけの俺は最後の気力を絞って右に全速全身する。包み込むような形で行進した。


 シスターは俺たちの行動を横目で見るとさらに加速する。

 まだスピードが上がるのかと驚いたが、この場面においては有難い誤算だった。

 彼女はフルスロットルで石畳を駆け抜け、草場を通り、そして




 こけた。


「に"ゃぁあ"?!」


 盛大に顔からスライディングし急減速する。


 その姿を確認した瞬間、俺とガラテンは即座に旋回。公園に全速力で駆け抜ける。

 クラリネッタはそれでも即座に立て直そうと起きようとする。


(ささや)く吐息、ノルニルの接吻(せっぷん)、ハニートラップと凍る背筋。〘フローラ〙!!」


 予防策として唱えたナナミの呪文は地面に手を向け冷気を放つ。最も近いその場から草が凍りつく。

 そこからレッドカーペットを敷くように伸びる氷道はシスターまで伸び、靴とスカートを地面と引っ付くように氷結させた。


 そして俺もヘッドスライディングし、滑り込むように取り押さえ泥だらけになりながらペテン師の捕獲に成功する。


「しゃあ!」


 息を切らせながら相手の両手を押さえ込んだ。


「ちぃ……何で地面が濡れてんのよ?!」


「いやあ……ほんどに、ついで……ないな"……何で……濡れでんだろうだぁ?……ゼェ」


「絶妙にキモい!!」


 生理的嫌悪を感じ喚いたシスター。


「ナナミざん……どりあえず……金の確保を……」


 ひとつ頷くと指示通り背負っている鞄を捜索する。


「一海ーーーーー!」


 遠くから聞き覚えのある声に顔を向けると、そこには歩いてくるミカがいた。

 こちらの事情を見ると、成功したと悟りにこやかに話しかける。


「あ、作戦うまく行ったんですね!」


「ああ……うまくかかったよ」


「……まさか、あたし()()()()()?!」


 俺と一緒に行動していないミカの姿を目に入れると、何か勘づいたのか言葉にした。


「ご名答。一海の案でいくつか仕掛けてたんだよ。……にしてもよくそんなの思いつくよなあ。〘ウォルタ〙で全部の入口と草場を濡らすなんてよお」


 そう。クラリネッタはただこけたのではない。

 罠に引っかかったのだ。

 〘ウォルタ〙を教えてもらった時のアントン達の草場を濡らしてモンスターを転倒させた話を覚えていて利用した。長めの雑草や土は濡れると滑りやすく、意識してないと足を取られやすい。

 実体験でもその怖さを知っていたので、どこかで利用させてもらうつもりだったがこんなに早く活用できるとは思わなかった。

 特に初級水氷魔法〘ウォルタ〙は全ての水分を操作できるため、ぱっと見浸潤させていないように仕上がるのもお手頃だった。


「聞いた話を真似ただけだよ。ありがとなミカ。お陰で助かった!」


「全くそうですよ! 入口2箇所と広場全部水かけろって。疲れたし怒られました!」


 思ってる以上に大変だったようで、頬を膨らませ拗ねる。

 しかし仕方ないのだ。ナナミしか動きの止める魔法を覚えてない上彼女だとギアの街にある入口二つ、広場二つの草場を全て浸潤しんじゅんできないのだ。

 ある意味家の魔法使いしか適任がいなかった。


「ミカしか頼めなくてさ……何か欲しいものがあったら言ってくれよ」


 彼女はその言葉に目を開きハッとする。そして話しながら頬を掻いてそっぽ向いた。


「べ、別に物とかは要らないですけど……貰わないのも失礼なので。仕方ありませんね!」


「ハハハ、それならまた後日ニ"ィイ"?!」


 ミカへの返答の最中、後頭部に衝撃が走る。

 痛みで言うとそこまで痛くはない。スライムの一撃や、ミカの杖フルスイングよりかは痛くはない。強いて言うなら立ち上がる時に頭をぶつけたような痛みだ。


「だ、ダメだよ! どうしたの?!」


「姉ちゃんを虐めるな!!」


 声のした方を向くと、ナナミが後頭部を叩いた犯人を押さえていた。

 ただしその犯人は7〜8歳程の男の子で、指2本ほどの太さの木の棒で殴ったというのは予想外の出来事だった。

現れたのは意外な救世主!


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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